<プレスリリース>「フレイルであっても、働くことは身体機能を維持し要介護リスクを低減することが明らかに」高齢者のフレイル・就業状況と要介護認定発生との関連:3.6年の追跡研究

発表内容の概要

 東京都健康長寿医療センター研究所の藤原副所長らの研究プロジェクトでは、フレイルであってもフルタイムで働く人は少なくなく、そのことは身体機能の維持に寄与し、新規要介護認定を抑制することを明らかにしました。この研究成果は、国際雑誌「Geriatrics & Gerontology International」オンライン版に掲載されました。

研究の背景

 これまで、高齢期の就業が心身の健康に及ぼす好影響については多数報告されてきました。しかし、認知機能、身体機能のいずれに有効なのかは明らかではありませんでした。また、元気な高齢者のみが進んで働き、その効果も限定されると考えられていました。そこで本研究では、高齢者の就業状況とフレイルの有無が要介護認定の主因別にみたリスクに及ぼす累積的な影響を縦断分析によって検討しました。

研究成果の概要

 東京都内の65-84歳の男女6386名を対象に、3.6年間の追跡研究をおこないました。質問紙によって、2016年時点の就業状況(非就業3704名、フルタイム(週35時間以上)就業1134名、パートタイム(週35時間未満)就業1001名、不定期就業547名)とフレイル有無を調べました。フルタイム、パートタイムで働く人のうちで、フレイルの人はそれぞれ17.5%、15.3%もいました。これらを類型化し3.6年間の主因別[認知症型v.s.非認知症型(主に身体機能障害による)]にみた新規要介護認定の発生との関係を分析しました。
 その結果、3.6年間で新規要介護認定になったのは806人(12.6%)であり、その内訳は、非就業16.8%、フルタイム5.6%、パートタイム5.8%、不定期11.2%でした。具体的には、フレイルでない群(=頑健な群)においては、非就業群と比較して、フルタイム、パートタイムいずれも、認知症型と非認知症型を合わせた新規認定全体を31~34%抑制しました。一方、フレイル群においてはフルタイムのみ新規認定全体のリスクを57%抑制しました。
 主因別にみると、フルタイムの場合のみ、フレイルでない群は認知症型の新規認定を50%抑制し、フレイル群は非認知症型の新規認定を54%抑制しました。

              図1. 新規要介護認定発生のリスク(フレイルでない高齢者の場合)


              図2. 新規要介護認定発生のリスク(フレイルな高齢者の場合)

研究の意義

 フレイルでない高齢者はフルタイムであれ、パートタイムであれ、働くことが新規要介護認定全体のリスクを抑制することがわかりました。一方、フレイルであっても、フルタイムで働くことにより身体機能の維持を介して新規認定を抑制できる可能性が示唆されました。なお、不定期に働くだけでは介護予防効果は期待できませんでした。これらの知見は、国や自治体が進める、多様な通いの場において有償の活動である「就労的活動」を取り入れることのエビデンスにもなりえます。今後は、フレイルになっても、フルタイムで働ける仕事や作業とは何かを精査し、適材適所にマッチングすることが求められます。

掲載論文

国際科学雑誌Geriatrics & Gerontology International
(オンライン版掲載 現地時間9月28日付)
The relationship between working status in old age and cause-specific disability in Japanese community-dwelling older adults with or without frailty: A 3.6-year prospective study
(日本の地域在住の高齢者におけるフレイル・就業状況と主因別にみた要介護認定発生との関係:3.6年間の前向き研究)
著者:Yoshinori Fujiwara, Satoshi Seino, Yu Nofuji, Yuri Yokoyama, Takumi Abe, Mari Yamashita, Toshiki Hata, Koji Fujita, Hiroshi Murayama, Shoji Shinkai, Akihiko Kitamura

プレス資料

(問い合わせ先)
〒173-0015 東京都板橋区栄町35-2
東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加とヘルシーエイジング研究チーム
主任研究員:清野 諭、研究所副所長:藤原佳典
電話:03-3964-3241(内線4250, 4257)
メール:fujiwayo@tmig.or.jp