<プレスリリース>「認知機能低下が死亡リスクをどう高めるかは孤立の種類次第:"独居"と"希薄なつながり"は正反対の作用を持つ」

発表内容の概要

 認知機能低下や認知症は、将来の死亡リスクを高める因子として知られています。この関係性に影響を与える要因として、性別、人種、認知症のタイプ等が報告されていますが、「孤立」がこの関係性に影響を及ぼすかは明らかにされていませんでした。
 研究チームは、都市部高齢者の疫学データを用い、認知機能低下と総死亡の関係性に対して、「孤立」がどのように作用するかを調べました。孤立については多くの研究が行われていますが、その定義等は研究によって様々です。本研究では、「世帯構成(独居か否か)」「社会的ネットワーク(他者との交流頻度)」「社会参加活動(地域活動等への参加状況)」の3つを取り上げました。この成果は、国際誌Journal of Gerontology Series B: Psychological Sciences & Social Sciencesに掲載されました。

研究目的

 都市部高齢者を対象にし、認知機能低下と総死亡の関連に対する孤立の修飾作用を明らかにすること。

研究成果の概要

 2015年、東京都A区に居住する介護保険認定を受けていない65歳以上者132,005名全員を対象に郵送による質問紙調査を実施しました。78,917名から回答があり(回収率59.8%)、自宅以外で居住している者、認知症の診断を受けている者を除く74,872名を分析対象としました。認知機能低下は、10項目の自記式認知症チェックリストにて測定し、死亡については、A区の協力のもと、5年間(2015〜2020年)の死亡情報を住民基本台帳から得ました。

 生存分析の結果、
 ✓ 認知機能低下は死亡リスクを1.37倍上昇させていた(ハザード
   比:1.37)。
 ✓ 「世帯構成と認知機能低下」および「社会的ネットワークと認知
   機能低下」には統計学的に有意な交互作用がみられた。
 さらに詳しい分析(図の層別解析)の結果、
 ✓ 他者との交流頻度が少ない人では、多い人に比べて認知機能低下
   が総死亡に与える影響は強かった(1.60倍 vs. 1.24倍)。
 ✓ 世帯構成別にみると、独居(一人暮らし)の人の方が、誰かと同
   居している人よりもその影響は弱かった(1.13 vs. 1.43倍)。

 以上により、"独居"と"希薄なつながり"は、共に孤立の指標として用いられることが多いものの、その働きは正反対であることが分かりました。

研究の意義

 高齢化が進展する我が国では、認知機能低下者や認知症高齢者への支援やケア体制の構築は喫緊の課題であり、その際には孤立の種類を把握し、十分に考慮すべきであることを示唆しています。

Murayama H, Sugiyama M, Inagaki H, Ura C, Miyamae F, Edahiro A, Motokawa K, Okamura T, Awata S. The relationship between cognitive decline and all-cause mortality is modified by living alone and a small social network: A paradox of isolation. J Gerontol B Psychol Sci Soc Sci. 2023;78(11):1927-1934.

プレス資料

(問い合わせ先)
〒173-0015 東京都板橋区栄町35-2
東京都健康長寿医療センター研究所
社会参加とヘルシーエイジング研究チーム
研究副部長(テーマリーダー) 村山 洋史
電話 03-3964-3241(内線4247または4269) 
Email: murayama@tmig.or.jp