<プレスリリース>「コロナ禍3年間にわが国の高齢者は社会的交流を維持した」

発表内容の概要

 わが国においては新型コロナウイルス感染拡大の影響で2020年4月に最初の緊急事態宣言が発出されて以降2021年9月まで計4回緊急事態宣言が出され、人々は行動自粛を余儀なくされました。本研究の時点の2022年10月においてもその影響は残っており、私たちは実に3年以上もコロナ禍による制限を受けていました。
 研究グループは、地域在住高齢者を対象とした包括的健康調査「お達者健診」のデータから、わが国の高齢者の他者との対面・非対面の交流頻度や人とのつながりの認識の、コロナ禍3年間の変化パターンを調べました。その結果、コロナ禍であってもわが国の高齢者は社会的交流を維持し、健康状態を維持しようと対処したことがうかがえました。この研究成果は、国際雑誌「Maturitas」オンライン版(2月12日付、筆頭著者:河合 恒)に掲載されました。

研究目的

 わが国の高齢者におけるコロナ禍3年間の社会的交流や人とのつながりの認識の変化パターンを明らかにすること。

研究成果の概要

 お達者健診の2019年会場調査に参加した720名のうち、2022年10月までの全4回の追跡調査に少なくとも1回参加した高齢者606名が対象となりました。別居の家族や親戚、友人や近所の人との対面・非対面の交流頻度、人とのつながりの認識をアンケートによって調査し、それらの得点の3年間の変化パターンを混合軌跡モデリングという統計手法によって調べました。
 それぞれ3つの変化パターンがあり、対面交流頻度得点は緊急事態宣言下の2年間は中頻度群、低頻度群で1~2点減少しました(図1左上)。しかし、非対面交流得点は調査期間を通じてほとんど変わりませんでした(図1右上)。人とのつながり認識得点はどのパターンでもわずかに低下傾向でしたが、3年間で1点程度でした(図1左下)。
 緊急事態宣言下の対面交流の減少は加齢による変化よりも大きいものでしたが、人とのつながりは加齢による変化の範囲内で顕著な低下はありませんでした。活動制限によって高齢者の対面交流は減少しましたが、非対面交流は減らさず、人とのつながりを維持したと考えられました。



 図1 コロナ禍における対面交流・非対面交流頻度得点、人とのつながりの認識の変化
 (交流頻度得点の目安:7点:ほとんど毎日、6点:週4~5回、5点:週2~3回、4点:週1回、3点:週1回未満、2点:月に2~3回程度、1点:月に1回。別居の家族や親戚、友人や近所の人のそれぞれで得点を求め14点満点)

研究の意義

 コロナ禍の活動制限による高齢者の社会的孤立やフレイルの増加を報告した研究はありましたが、3年間という長期に渡る影響を調べた研究はありませんでした。本研究の対象は、コロナ禍であってもお達者健診に継続して参加できた地域在住高齢者でしたので、急激に交流が低下した高齢者の結果が反映されていない可能性もあります。しかし、社会的孤立やフレイルに該当する高齢者も含まれており、わが国の高齢者をある程度は代表しています。本研究の結果は、長期的なパンデミックに対処する力を、わが国の高齢者の多くが有していたことを示すものと考えています。

掲載論文

Kawai H, Ejiri M, Imamura K, Ito K, Fujiwara Y, Hirano H, Ihara K, Obuchi S: Three-year trajectories of social networks, face-to-face interactions, and non-face-to-face interactions among community-dwelling older adults in Japan during the COVID-19 pandemic: Otassha study, Maturitas, Available online 12 February 2024, 107943.
論文URL:https://doi.org/10.1016/j.maturitas.2024.107943

プレス資料

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東京都健康長寿医療センター 福祉と生活ケア研究チーム 
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