<プレスリリース>「脳脊髄液アルツハイマー病バイオマーカーと脳内病理所見の関係」について研究結果を発表

発表内容の概要

 当センター研究所 神経病理学 (高齢者ブレインバンク)、病院 脳神経内科、認知症未来社会創造センター (IRIDE) のチームは「脳脊髄液アルツハイマー病バイオマーカーと脳内病理所見の関係」について、2024327Acta Neuropathologica Communications誌に研究結果を発表しました。

研究の背景・目的

 アルツハイマー病は認知症の原因として最多で、脳内にアミロイドβその後タウというタンパク質の異常な蓄積を認め、物忘れなど認知機能低下を認めていく疾患です。近年はレカネマブなどのアミロイドβに対する治療薬の登場により認知症の前段階の軽度認知障害期からの早期診断が重要となっています。
 アルツハイマー病の診断にはアミロイドβ42 (注1)、リン酸化タウ (注2) などの脳脊髄液バイオマーカーが有用なことが知られ、それぞれ脳内のアミロイドβ・タウの異常な蓄積と関連すると考えられてきました。しかし近年脳脊髄液中のアミロイドβ42は他の疾患でも低下することがあることや、リン酸化タウの増加は脳内のタウ蓄積よりもかなり早期に生じる可能性が注目されていました。しかしアミロイドβ・タウなどの脳内病理との関連を直接みた研究は不十分でした。
 脳内のアミロイドβ蓄積は認知機能が正常な高齢者でも頻繁に認める一方でタウ蓄積の広がりは症状と関連することから、これらのバイオマーカーと脳内病理の関係は臨床現場でアルツハイマー病と症状の関連を検討するにあたり重要な課題でした。

研究成果の概要

 当院で脳脊髄液アルツハイマー病バイオマーカー検査を過去に行い、その後当院で病理解剖を行った127例を対象に検討しました。
 タウの蓄積が広がっていない症例の中でも脳内のアミロイドβ病理の強さとともに脳脊髄液中のリン酸化タウが軽度増加していることを明らかにしました。一方で脳内にアミロイドβ病理を認める症例の中でもタウの蓄積が広がると脳脊髄液中のリン酸化タウはさらに増加していることを明らかにしました。
 脳脊髄液中のアミロイドβ42は脳内のアミロイドβ病理の強さとともに減少しているものの、進行性核上性麻痺・大脳皮質基底核変性症 (注3) など一部の疾患では脳内アミロイドβ病理がないにも関わらずアミロイドβ42が減少することがあることを明らかにしました。

研究の意義

 これらの結果から脳脊髄液アルツハイマー病バイオマーカーを測定した患者さんの脳内で起きている病気の状態 (病理学的変化) を、臨床現場においてより高精度に予測できることが期待できます。

論文情報

"Neuropathological changes associated with aberrant cerebrospinal fluid p-tau181 and Aβ42 in Alzheimer's disease and other neurodegenerative diseases" 「脳脊髄液アルツハイマー病バイオマーカーと脳内病理所見の関係」
筆頭著者:病院 脳神経内科 栗原 正典、 研究所 神経病理学 (高齢者ブレインバンク) 松原 知康
責任著者: 研究所 神経病理学 (高齢者ブレインバンク) 研究部長 齊藤 祐子
掲載紙:「Acta Neuropathologica Communications」
URL:https://doi.org/10.1186/s40478-024-01758-3

※本研究は神経病理学研究チーム (高齢者ブレインバンク)、病院 脳神経内科、認知症未来社会創造センター(IRIDE) との共同研究の成果です。

※認知症未来社会創造センター(IRIDE) では膨大な臨床データ・剖検時の脳病理データと血液・脳脊髄液などのバイオバンク事業を統合することで今後更なる認知症の課題解決を目指して活動しています。

※本研究は東京都健康長寿医療センター、日本医療研究開発機構 (AMED)、日本学術振興会 (科研費)、厚生労働省 (難治性疾患政策研究事業) などから資金援助を受けました。

用語解説

注1) アミロイドβ42
アルツハイマー病の原因となるアミロイドβの中でも最も多いアミロイドβ40と比べて少し長さが長いアミロイドβ42は脳内で凝集といって集まって固まりやすく、アルツハイマー病患者さんの脳脊髄液中では溶けているままのアミロイドβ42の量は減少することが知られています。

注2) リン酸化タウ
タウは神経細胞に多く見られるタンパク質で、アルツハイマー病など脳内にタウの異常な蓄積を認める疾患では、リン酸化といってタンパク質に修飾がついていることが知られます。アルツハイマー病では脳脊髄液中のリン酸化タウが増加することが知られていますが、アルツハイマー病以外の脳内にリン酸化タウの蓄積を認める疾患の脳脊髄液中では増加しないことが知られています。

注3) 進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症
アミロイドβの異常とは関連なく脳内にリン酸化タウの異常な蓄積を認める疾患で、パーキンソン症候群の原因となる他に認知機能低下・認知症の原因となることも知られます。これまで臨床的にこれらの疾患が疑われた患者で脳脊髄液中のアミロイドβ42が低下していることが報告されていましたが、アミロイドβ病理を合併したために低下しているのかアミロイドβ病理と関係なく低下しているのか不明でした。

プレス資料

(問い合わせ先)
東京都健康長寿医療センター 脳神経内科 医員 栗原正典
電話 03-3964-1141(内線 64362)Email: masanori_kurihara@tmghig.jp