<プレスリリース>臨床医の成年後見制度および医療同意権全般に対する認識を明らかに

発表内容の概要

 本研究は、終末期医療に携わる脳神経内科医師であり、弁護士でもある発表者が、双方の視点に立脚し、臨床医を対象として成年後見制度および医療同意権に対する認識についてアンケート調査を行い、医療同意権について考察したものである。

 医療における自己決定権(以下「医療同意権」)は日本国憲法第13条の「生命・・・に関する国民の権利」として保障されうる一身専属権(患者本人のみが行使でき、他人に移転しない権利)である。かかる観点から、成年後見人には医療同意権が与えられておらず、家族が代諾者として医療行為に同意する場合には,家族固有の意思ではなく患者本人の意思を推測して同意(または不同意)をなすべきであると考えられている。

 本研究の結果、成年後見制度についての医師の認識は低かった。また、患者本人に同意能力がある場合でも、家族(いわゆる「キーパーソン」)の同意をより重視している医師が多かった。意思決定困難症例の医療同意に関する法整備を望む声も多いが、第三者に法的な医療同意権を認めることは医療同意権の一身専属性を揺るがしかねない。成年後見制度が十分に活用されたうえで、成年後見人と医療者が中心となった意思決定支援の動きが社会に浸透することが望まれる。

研究目的

臨床医の成年後見制度および医療同意権全般に対する認識を明らかにすること。

研究成果の概要

 医師544名に対して電磁的方法でアンケートを配布した。その結果、102名(18.8%)の医師から回答を得た。成年後見制度の存在自体はほとんどの医師が認知しているものの、事理弁識能力の程度に応じて3類型があるという制度の内容を知っている医師は2割に満たず、さらに、成年後見人に医療同意権が付与されていないことを知っている医師は半数未満で、実際に成年後見人から医療行為の同意書を取得した経験のある医師が4割もいた。

 なお、後見人に医療同意権がないと知っていたにもかかわらず、被後見人が受ける医療行為の同意書の署名を後見人に求めたことがある医師が複数存在していたことから、臨床現場で重視される「同意書」の意義についても検討し考察を加えた。

 医療同意権の一身専属性については4割の医師が知らないと回答し、患者本人の認知機能が保たれていても、病状により説明室に呼ぶのが困難であるような場合には、患者本人への説明を省略して家族(キーパーソン)からのみ同意を得た経験があると回答した医師が約7割も存在した。

研究の意義

 本研究は、法曹人の視点をもつ現役の臨床医である発表者が、チーム医療の責任者たりうる医師に照準を合わせ、「キーパーソン」の位置づけや意思決定困難症例の対応方法を含めた医療同意全般に係る論点について、多数の臨床医の認識を調査し考察した新規性の高い報告である。本研究により臨床医の医療同意権の一身専属性に対する意識の低さが明らかとなった。

 このことは、成年後見実務において医師から医療同意を求められることがある弁護士などの専門職後見人に対するインパクトも大きい。本発表により、医療同意権の一身専属性を医療者に対して啓蒙し、成年後見制度の活用や、意思決定困難症例に対する意思決定支援の動きを推進することで、患者の自己決定権が最大限に尊重される社会に変革させる一助となることが期待される。

論文情報

雑誌名:「臨床倫理」№12. 52-65. 2024
発行元:日本臨床倫理学会
発行年月日:2024年3月31日
表題:臨床現場から考える医療同意権―臨床医を対象としたアンケート調査からの考察-(Medical Consent Rights from a Clinical Perspective: A Questionnaire Survey of Clinicians)
著者:肥田あゆみ,井藤佳恵

プレス概要

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福祉と生活ケア研究チーム ソーシャルインクルージョン研究  
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