<プレスリリース>加齢性難聴者の高い転倒リスクは歩行機能低下が関係している―歩くのが遅い難聴者は転倒による骨折リスクが約3倍高まることが明らかに―

発表内容の概要

 東京都健康長寿医療センター研究所の桜井良太研究員をはじめとする研究グループは、高齢期の難聴単体では転倒リスクに影響を与えないが、難聴に歩行機能の低下が重なることで、転倒や転倒による骨折の危険性が高まることを明らかにしました。この研究成果は、国際雑誌「GeroScience」オンライン版(11月1日付)に掲載されました。

研究成果の概要

 加齢性難聴は高齢者の転倒発生の強い危険因子であることが知られています。しかし、なぜ加齢性難聴が転倒のリスクを高めるのかについては明らかではありませんでした。従来、加齢性難聴は歩行機能の低下と密接に関連することが分かっています。そこで我々の研究チームは、「歩行機能の低下が難聴と転倒発生の関連を強めている」と仮説立て、検証を行いました。

 研究では、2013年もしくは2014年に板橋区で行った健康調査「お達者健診(代表:大渕修一研究部長)」に参加し、1年以上の追跡ができた786名の高齢者のデータを用いました。調査ではオージオメータを用いて聴力測定し、25dB以上の者(軽度難聴者以上)を「難聴者」と定義しました。また歩く速度の計測を行い、歩く速度が集団平均から1SD遅い者を「低歩行速度者」と定義し、難聴との組み合わせから研究参加者を①非難聴・非低歩行速度、②非難聴・低歩行速度、③難聴・非低歩行速度、④難聴・低歩行速度の4群に分けました。これらの研究参加者を最大8年間追跡し、1年間の①単回転倒、②複数回転倒、③転倒による骨折以外のケガ、④転倒による骨折について調べました。

 調査の結果、追跡期間中に発生した事故件数は、単回転倒328件、複数回転倒117件、転倒による骨折以外のケガ249件、転倒による骨折55件でした。これらの事故に関して、難聴と歩行速度で分けた群との関連を調べたところ、難聴に加え、歩く速度が遅い群では、全ての転倒事故のリスクが高くなることが明らかとなりました。一方で、難聴もしくは低歩行速度のどちらかだけを満たす群では各転倒事故リスクの有意な上昇は確認されませんでした。

図.時間経過(8年)に伴う4群における転倒リスクの違い

 縦軸はイベント発現率を示しており、赤線で示される「難聴+低歩行速度」のグループでは8年間でイベントの発生率が高いことが分かる。aHRは年齢や性別などの要因を調整した上でのイベント発生リスク(「非難聴+非低歩行速度」群と比べた場合)を示しており、「難聴+低歩行速度」群では複数回転倒や転倒による骨折のリスクが約3倍高いことが明らかとなった。

研究成果の意義

 本研究から加齢性難聴だけでは転倒関連の事故を起こす可能性はそれほど高くなく、歩行機能の低下が重なることで、そのリスクが高まることが明らかとなりました。これまでの研究結果が示している加齢性難聴が転倒リスクを高めるという報告は、歩行機能低下との相乗効果によるものといえます。したがって、特に難聴のある方は、足腰の衰えに注意を払う必要があります。「耳の聞こえにくさ」に対する早期かつ適切な対応と、過度に歩く速度が遅くならないように足腰の機能を維持することが傷害予防の観点から重要です。

掲載論文

国際科学雑誌GeroScience(現地時間11月1日)
Increased Risk of Falls in Older Adults With Hearing Loss and Slow Gait:Results From the Otassha Study (難聴と低歩行速度による転倒リスクの上昇)

プレス概要

(問い合わせ先)

東京都健康長寿医療センター研究所
社会参加とヘルシーエイジング研究チーム 桜井良太
電話 03-6905-6781 Email: sakurair@tmig.or.jp