2025.6.13
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、感染症そのものの脅威だけでなく、人々の社会的つながりや心の健康にも大きな影響を与えました。特に、外出自粛や人との接触制限が続く中で、社会的孤立や孤独感の増加が懸念されてきました。これらの心理社会的要因が、COVID-19の感染リスクや重症化にどのように関連しているのかを明らかにすることは、今後の公衆衛生対策を考える上で重要です。
今回、村山洋史研究副部長らの研究チームは、全国規模の調査データを用いて、社会的孤立や孤独感とCOVID-19の感染および入院との関連を明らかにしました。その結果、社会的孤立が感染リスクの低下と関連していた一方で、孤独感が入院リスクの増加と関連していることが示されました。この研究成果は、2025年4月に国際学術誌Social Psychiatry & Psychiatric Epidemiology に掲載されました。
本研究の目的は、COVID-19パンデミック中の日本において、社会的孤立および孤独感がCOVID-19の感染および入院とどのように関連しているかを明らかにすることです。
2020年から毎年実施されている「Japan COVID-19 and Society Internet Survey(JACSIS)」の2020年と2022年のデータを使用し、2回の調査に回答している15-79歳の全国の男女13,612人を対象としました。社会的孤立は同居家族以外との直接的・間接的な接触頻度を基に、孤独感は世界的に使用されているUCLA孤独感尺度を用いて評価しました。
社会的孤立と感染リスクは負の関連を示しました。具体的には、社会的孤立状態にある人々では、そうでない人と比べてCOVID-19に感染するリスクが約24%低いという結果が得られました(オッズ比=0.76、95%信頼区間:0.65-0.88)。これは一見、意外な結果に思えるかもしれません。しかし、社会的孤立により他者との接触頻度が低くなることで、感染機会そのものが減少していた可能性が考えられます。つまり、「人とのつながりの少なさ」が、物理的な感染防御としてはある種の保護因子として作用した可能性があります。
■ 孤独感とCOVID-19入院リスク
一方、孤独感とCOVID-19による入院リスク(=重度化リスク)との間には正の関連が見られました。孤独感が高い人は、COVID-19で入院するリスクが2.1倍だったのです(オッズ比=2.13、95%信頼区間:1.53-2.98)。この結果は、孤独感が心身の健康に及ぼす影響の大きさを示唆しています。孤独感は、慢性的なストレス反応を引き起こし、免疫機能を低下させたり、健康管理行動の質を低下させたりする可能性があるとされています。そのため、実際に感染した場合に症状が重くなりやすく、入院に至るリスクが高くなったと考えられます。
■ 性別による違いも
また、本研究では性別による違いも明らかになりました。男性では、社会的孤立や孤独感の影響がより強く、特に孤独感が男性の入院リスクを高めている傾向が顕著でした。これは、男性の方が孤独を訴えづらく、精神的ストレスや健康不安を表に出しにくい傾向が影響していると考えられます。
本研究は、社会的孤立と孤独感という一見似た概念が、COVID-19の感染および重症化リスクに異なる影響を与えることを明らかにしました。特に、孤独感が重度化リスクの増加と関連していることから、感染症対策において心理的なサポートの重要性が示唆されます。今後の公衆衛生政策においては、感染防止だけでなく、社会的つながりや心の健康を維持・促進する取り組みが求められます。
Murayama H, Suda T, Nakamoto I, Tabuchi T. Exploring the association of social isolation and loneliness on the experience of COVID-19 infection and hospitalization in the Japanese population: The JACSIS study. Social Psychiatry & Psychiatric Epidemiology, 60, 943-952, 2025
https://link.springer.com/article/10.1007/s00127-024-02793-0
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