<プレスリリース>炎症を促す食事を多く摂る高齢女性は、慢性的な痛みを抱えている割合が高いことが明らかに

2025.10.14 

発表内容の概要

 東京都健康長寿医療センター研究所の西元淳司協力研究員および笹井浩行研究副部長らの研究グループ(フレイル・筋骨格系の健康研究)は、地域在住高齢者を対象とした横断研究*1により、炎症を促進する食事摂取パターンを有する高齢女性は、慢性疼痛*2を抱えている割合が高いことを明らかにしました。
 この研究成果は、国際学術誌「Archives of Gerontology and Geriatrics」に掲載されました。本研究を通じて、特に女性において、炎症を促進する可能性のある食品摂取を管理することは慢性疼痛の予防に有効である可能性があります。

研究成果の概要

研究背景
 近年、食生活と慢性疼痛の関連性に注目が集まっています。近年の報告では、不健全な食事摂取パターンと慢性疼痛の発症リスクは関連している可能性が示されています。また、慢性疼痛の背景には慢性炎症(軽度な炎症反応が長期間続く状態)が関与していると考えられています。炎症が持続すると炎症性の物質が神経を刺激して、痛みの感じ方を強めたり痛みを長引かせたりする可能性があります。
 こうした知見から、体に炎症を起こしにくい抗炎症性の食事摂取パターンが慢性疼痛の予防に重要ではないかと考えられています。例えば炎症を促進する食事には、糖分や飽和脂肪酸を多く含むもの・炭水化物・加工肉などが挙げられます。一方、野菜や果物、食物繊維などは炎症を抑制する食材とされ、こうした食品を多くとることは炎症リスクが低い「抗炎症性の食事」といわれています。食生活が身体の炎症に与える影響を客観的に評価する指標として開発されたのが食事性炎症指数(Dietary Inflammatory Index: DII*3)です。DIIは各食品や栄養素の炎症への影響度を点数化したもので、食事全体が炎症をどの程度促すか(あるいは抑えるか)を示す尺度です。DIIスコアの値が高いほどその食事は炎症を促す傾向が強く、逆に低い値ほど炎症を抑える傾向が強いことを意味します。これまで、DIIスコアと各種疾患との関連が数多く研究されていますが、高齢者において「炎症誘発性の食事パターン」と「慢性疼痛」の関連を調べた研究は限られていました。

本研究の目的と方法
 本研究では、上述の背景を踏まえ、高齢者における炎症誘発性の食事と慢性疼痛の関連を明らかにすることを目的としました。特に、性別や年齢層の違い、および抑うつ傾向の有無によって、その関連に違いがあるかを検討しています。
 研究方法は、地域在住高齢者を対象とした横断研究です。対象となった高齢者の方々に普段の食事内容をアンケートで回答していただき、摂取している食品群や栄養素の情報から一人ひとりのDIIスコアを算出しました。DIIスコアが高いほど炎症誘発性の食事パターン、低いほど抗炎症性の食事パターンとなります。併せて、各参加者の慢性疼痛の有無も調査しました。慢性疼痛は肩、腰、膝のいずれかの部位に3ヶ月以上続く疼痛がある場合を「慢性疼痛がある」と定義しました。また、対象者の性別、年齢のほか、抑うつ傾向について評価する質問紙(Geriatric Depression Scale: GDS)を用い、抑うつ傾向の有無も聴取しました。これらのデータの統計解析を行い、DIIスコアと慢性疼痛に関連がみられるかどうか、さらにその関連が性別や年齢層の違い、抑うつの有無によってどのように異なるかを検討しました。

研究結果

 炎症誘発性の食事パターン(高いDIIスコア)である女性は男性よりも慢性疼痛を有する割合が高いことがわかりました。また、80歳以上の女性グループでは、炎症性誘発性の食事摂取パターンとなることで慢性疼痛を持つ割合が高くなることが明らかになりました(図1)。


図1. 女性は男性と比べて、DIIスコアが慢性疼痛と関連する。
特に女性かつDII Q4(DIIスコアが最も高いグループ:炎症誘発性の食事パターン)では慢性疼痛の発生率が高い。


 さらに、抑うつ傾向のある高齢女性においても炎症誘発性の食事摂取パターンとなることで慢性疼痛の保有割合が高くなることが明らかになりました(図2)。

図2. 80歳以上の女性、抑うつを有する女性におけるDII Q4(炎症誘発性の食事パターン)は、
DII Q1(抗炎症性の食事パターン)である者と比較して慢性疼痛の発生率が高い。

研究成果の意義

 本研究の成果は、高齢者の慢性疼痛に対する新たな予防策として「食事」に注目すべきことを示唆しています。これまで慢性疼痛へのアプローチとして、薬物療法、心理的介入、リハビリテーション、運動療法などが挙げられていました。しかし、本研究によって、日々の食生活が慢性疼痛に関連しうることが示され、栄養・食事面からの新たな介入が慢性疼痛の予防や軽減に有効となる可能性があります。

掲載論文

雑誌名:Archives of Gerontology and Geriatrics
論文名:Association between pro-inflammatory dietary patterns and chronic pain in community-dwelling older adults: A cross-sectional study
著者:Junji Nishimoto, Naoki Deguchi, Sho Hatanaka, Takashi Shida, Takahisa Ohta, Narumi Kojima, Maki Shirobe, Keiko Motokawa, Hirohiko Hirano, Tsuyoshi Okamura, Shuichi Awata, Hiroyuki Sasai
掲載日:2025年9月23日
DOI:10.1016/j.archger.2025.106035
URL: https://doi.org/10.1016/j.archger.2025.106035

○用語解説
1 「横断研究」
ある一時点での人の健康状態や生活習慣を調べ、そこにどのような関係があるかを明らかにする研究方法です。

2 「慢性疼痛」 
けがや病気が治ったあとも長く続く痛みのことを指します。3か月以上続く痛みを「慢性疼痛」と呼び、日常生活や仕事に支障をきたすことがあります。

3 「Dietary Inflammatory Index(DII)」 
食事の内容が体の「炎症」をどの程度強めるか、あるいは抑えるかを数値で示す指標です。DIIは、−8.87〜7.98の値をとります。特定の栄養素や食品の摂取量をもとに計算され、値が高いほど炎症を促す食事、低いほど炎症を抑える食事をしていることを意味します。

プレス概要

(問い合わせ先)
東京都健康長寿医療センター研究所
自立促進と精神保健研究チーム フレイル・筋骨格系の健康研究
研究副部長 笹井浩行
E-mail: sasai@tmig.or.jp