<プレスリリース>腸内細菌叢の「Firmicutes」低値が脳内アミロイドβ蓄積と関連 ―東京都の高齢者を対象としたPET画像研究で明らかに―

2025.11.27

発表内容の概要

 東京都健康長寿医療センター研究所の小島成実研究員、笹井浩行研究副部長らの研究グループは、地域在住高齢者を対象に、腸内細菌叢の構成と脳内アミロイドβ蓄積との関連を調べました。その結果、腸内細菌のうちFirmicutes(ファーミキューテス)門の割合が低い人ほど、脳にアミロイドβの蓄積がある割合が高いことが分かりました。
 本研究成果は国際学術誌「PLOS ONE」に掲載されました。

研究成果の概要

背景
 アルツハイマー病は認知症の主な原因であり、脳内にアミロイドβが蓄積することが特徴です。近年、「腸―脳相関」と呼ばれる概念のもと、腸内細菌が脳の健康や疾患の進行に影響を与える可能性が注目されています。日本で暮らす高齢者は、米飯を中心とした和食を基盤に、魚介類、大豆製品、野菜、発酵食品などを多く摂取するなど、他国と異なる食習慣や食事パターンを持つことが知られています。こうした食環境のもとで腸内細菌との関係を明らかにすることには意義があります。

方法
 東京都在住の68~86歳の高齢者136名を対象とし、
 ① 脳内アミロイドβ蓄積を陽電子放射断層撮影(PET)で評価、
 ② 腸内細菌叢を便検体から解析(16S rRNAシーケンス)、
 ③ 年齢・性別・抗菌薬使用歴を調整して統計解析を行いました。

結果
 対象者のうち34.6%がアミロイドPETで陽性でした。図1(PLOS ONE掲載論文より改変して掲載)に示すように、アミロイドPET陽性群と陰性群を比較すると、Firmicutes門の割合が、陰性群では56.8%、陽性群では52.6%と、陽性群で有意に低値でした。また、Firmicutes門の割合が中央値より高い群では陽性率が26.4%であったのに対し、中央値より低い群では42.6%と高く(χ²検定によるp=0.047)、両群間に有意な差が認められました。さらに、年齢・性別・抗菌薬使用を調整した二項ロジスティック回帰分析でも、Firmicutesの割合が低いことは脳内アミロイドβ陽性と有意に関連していました(オッズ比2.15)。
 他の腸内細菌や多様性指数(α・β多様性)では有意な差はみられませんでした。



研究成果の意義

 本研究は、腸内細菌叢がアルツハイマー病発症に関与する可能性を日本人高齢者で初めてPET画像と併せて示したものです。Firmicutesは短鎖脂肪酸を産生し、それを介して炎症の抑制や脳機能の維持に関わることが知られています。
 今後、腸内環境を整える食事や生活習慣が、認知症予防の一助となる可能性があります。

掲載論文

雑誌名:PLOS ONE
論文名:Lower Firmicutes abundance in gut microbiota associated with amyloid-β positivity in older adults in Japan as assessed by positron emission tomography
著者:Narumi Kojima, Yosuke Osuka, Hiroyuki Sasai, Shoji Shinkai, Kenji Ishii, Noriyuki Kohda, Yodai Kobayashi, Hunkyung Kim
掲載日:2025年10月29日
DOI: 10.1371/journal.pone.0332801

用語解説

・Firmicutes(ファーミキューテス)門:腸内に多く存在する細菌群。短鎖脂肪酸を産生し、炎症や代謝に関与する。
・アミロイドβ:アルツハイマー病の特徴的なたんぱく質。脳内に蓄積し、神経細胞を障害するとされる。
・PET(Positron Emission Tomography):脳内の代謝や病変分布を可視化する画像検査。
・16S rRNAシーケンス:腸内に存在する細菌の種類や割合を調べるための遺伝子解析法。細菌のリボソームRNA(16S rRNA)遺伝子の配列を読み取ることで、どの菌がどの程度いるかを推定できる。
・オッズ比(odds ratio):ある要因(例:Firmicutesが少ないこと)と結果(例:アミロイドβ陽性)との関連の強さを示す指標。1より大きい値は、その要因があるほど結果が起こりやすいことを意味する。

利益相反(COI)開示

 本研究は、東京都健康長寿医療センター研究所と大塚製薬株式会社との共同研究の一環として実施されました。

プレス概要

(問い合わせ先)
東京都健康長寿医療センター研究所
自立促進と精神保健研究チーム
研究員 小島成実
E-mail: nkojima@tmig.or.jp