2025.11.28
東京都健康長寿医療センター研究所の小島成実研究員および笹井浩行研究副部長らの研究グループは、地域在住高齢者を対象とした横断研究*1により、「声が若い」と周囲から言われる高齢者は、良好なメンタルヘルスと活発な人間関係を持つ傾向があることを明らかにしました。
この研究成果は国際学術誌「Journal of Voice」に掲載されました。本研究を通じて、声の若々しさが精神的健康状態や社会的つながりと深く関連している可能性が示されました。
○研究背景
人の「声」には年齢が表れるといわれますが、実際に声の若々しさが心身の健康とどのように関係するのかは、これまで十分に明らかにされていません。声は発声器官だけでなく、全身の筋力、呼吸機能、精神状態など多様な要素に影響を受けるため、加齢や生活習慣、健康状態を反映している可能性があります。
○研究目的と方法
本研究では、東京都板橋区に在住する高齢者1,066名(平均年齢77.5歳)を対象に、「周りから『声が若い』と言われることがありますか。よくある/たまにある/めったにない」という質問紙調査を行い、その回答と生活習慣・健康指標との関連を検討しました。
分析では、質問に対し、「よくある/たまにある」と答えた人を「声が若い」と定義しました。そのうえで、声の若さの関連要因として、身体組成(体内水分率など)、体力、喫煙・飲酒習慣、睡眠、栄養摂取、認知機能、抑うつ傾向、社会交流頻度など多様な要因を探索的に調べました。
○研究結果
最終的に「声が若いと評価されること」と有意に関連する主要因として浮かび上がったのは、心の健康と社会的交流でした。すなわち、「WHO-5」*2で評価される精神的健康状態が良好である人ほど「声が若い」と評価される割合が高く(オッズ比*3 1.07[95%信頼区間 1.04-1.09])、また、友人や知人と月1回以上の直接交流を持つ人ほど「声が若い」と評価される割合が高いことが示されました(オッズ比 2.23[95%信頼区間 1.71-2.91])。それ以外の指標は統計的に有意な関連を示しませんでした。
○研究成果の意義
本研究は、「声の若々しさ」が心身の健康や社会的交流と関連していることを初めて明らかにしました。声は誰もが日常的に意識できる特徴であり、「声の若さ」が心身の健康や社会的つながりの維持に関わる可能性が示されました。本研究の限界点としては、「声の若さ」を「他者の評価」と「本人の回答」という二重のフィルターを通して評価しているため、一定のバイアスを含む可能性があります。今後は、声の若さを客観的に評価する研究でさらに検証する必要があります。
雑誌名:Journal of Voice
論文名:Factors Associated with Being Perceived as Vocally Young in Older Adults
著者:Narumi Kojima, Yosuke Osuka, Keiko Motokawa, Ayako Edahiro, Hirohiko Hirano, Shuichi Awata, Hiroyuki Sasai
オンライン掲載日:2025年9月29日
DOI:10.1016/j.jvoice.2025.09.014
URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0892199725003807?via%3Dihub
*1 「横断研究」:ある一時点での人の健康状態や生活習慣を調べ、それらの間にどのような関係があるかを明らかにする研究方法です。
*2 「WHO-5」:世界保健機関が作成した質問票で、気分の落ち込みや生活への満足度などを点数化したもの。得点が高いほど精神的に健康であることを示します。
*3 「オッズ比」:ある要因が結果にどの程度関係しているかを表す指標。1より大きいほど、その要因をもつ人で結果が起こりやすいことを意味します。
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