<プレスリリース>75歳以上の日本人高齢者において抗凝固薬処方が脳出血の入院リスクを高めることを検証

2025.12.12

発表内容の概要

 福祉と生活ケア研究チーム(医療・介護システム研究)・平田匠研究部長のグループは、北海道に住む後期高齢者約80万人分のレセプト(診療情報明細書)情報を分析し、抗凝固薬の処方が脳出血による入院リスクの上昇と関連すること、またワルファリン処方がDOACs(直接経口抗凝固薬)処方に比べて脳出血による入院リスクが高いことを明らかにしました。
 研究成果は国際科学雑誌『Aging Clinical and Experimental Research』に掲載されました。

研究目的

 抗凝固薬は心房細動などに伴う脳梗塞の発症予防に有益ですが、高齢者では脳出血などの大出血リスクも高めてしまうことが報告されています。しかし、日本の後期高齢者において、抗凝固薬が脳出血のリスクをどれほど高めるのか、また抗凝固薬の種類(ワルファリンとDirect oral anticoagulants: DOACs(直接経口抗凝固薬))により脳出血のリスクが異なるのか、といった検討はこれまで十分行われておりませんでした。そこで、本研究では、北海道に住む75歳以上の日本人高齢者約80万人分のレセプト情報を活用し、抗凝固薬処方と脳出血による入院リスクとの関連、ならびにワルファリン処方とDOACs処方における脳出血による入院リスクの違いを検討しました。

研究結果

 2016年4月から2017年3月の間(ベースライン期間)に医療機関を受診された者のうち、同期間における死亡者や脳出血による入院者を除いた717,097名を分析対象者としました。そのうち、ベースライン期間に抗凝固薬を処方された者は66,916名(9.3%)でした。抗凝固薬の処方と脳出血による入院との関連を調べるにあたり、抗凝固薬の処方があった者となかった者で対象者の特性(性別や年齢、併存疾患、健康診断受診の有無など)を均等にする必要があるため、傾向スコアマッチング法を用いて対象者を選定し、抗凝固薬の処方があった者となかった者で特性が近い66,258組(132,516名)が選ばれ、分析に用いられました。2年間の追跡期間(2017年4月から2019年3月)において、脳出血による入院の発生率は、抗凝固薬の処方がなかった者(252.2/100万人月)より処方があった者(382.2/100万人月)で高く、処方があった者では処方がなかった者と比較して脳出血による入院の発生リスクが約1.6倍高いことが明らかとなりました(ハザード比1.64、95%信頼区間:1.39-1.93)。
 さらに、1種類の抗凝固薬を処方された61,556名のうち、ワルファリンの処方者とDOACsの処方者の特性を均等にするため傾向スコアマッチング法を用いて選定した19,713組(39,426名)を分析対象として、脳出血による入院の発生率を比較しました。その結果、脳出血による入院の発生率は、DOACsの処方者(293.3/100万人月)よりワルファリンの処方者(382.2/100万人月)で高く、ワルファリンの処方者では脳出血による入院の発生リスクが約1.7倍高いことが示されました(ハザード比1.67、95%信頼区間:1.39-2.01)。

研究の意義

 『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025』において、高齢者に対する抗凝固薬(特にワルファリン)の使用は、大出血のリスクを高めることが記載されていますが、本研究では国内の後期高齢者を対象とした大規模データで抗凝固薬の脳出血リスクを初めて示すことができ、その科学的根拠を強めることができました。抗凝固薬は日常臨床の現場でも多く用いられる薬剤ですが、高齢者(特に75歳以上の後期高齢者)に抗凝固薬による治療を行う際には、脳出血に代表される大出血のリスクを考慮し、慎重な薬剤選択を行うとともに、薬剤投与時には定期的にモニタリングを実施することが必要であると考えられます。

掲載論文

Seigo Mitsutake, Koki Ono, Masahiro Akishita, Takumi Hirata. The association of anticoagulant use and hospitalization for hemorrhagic stroke among older adults aged 75 or older: A propensity score-matched study. Aging Clinical and Experimental Research 2025; 37(1): 322.

DOI: https://doi.org/10.1007/s40520-025-03234-x

その他

 当センターは、北海道後期高齢者医療広域連合と「北海道における後期高齢者医療制度被保険者の健康寿命延伸に関する連携」にかかる協定を締結しています。

プレス概要

(問い合わせ先)
東京都健康長寿医療センター研究所
福祉と生活ケア研究チーム(医療・介護システム研究)
平田匠・光武誠吾
電話: 03-3964-3241 
E-mail: t_hirata@tmig.or.jp / mitsu@tmig.or.jp