<プレスリリース>膵臓がん細胞を "老化させて除去" FGFR4阻害剤BLU554とセノリティック薬を併用した新たな二段階治療を提案 ―難治性膵臓がんへの新戦略―

2026.1.14 

発表内容の概要(ポイント)

 東京都健康長寿医療センター研究所の藤原 正和(ふじわら まさかず)研究員、石渡 俊行(いしわた としゆき)研究部長らは、日本医科大学消化器外科の進士 誠一(しんじ せいいち)准教授らと共同で、膵臓がんの中でも特に予後の悪い「FGFR4を発現する膵臓がん」に対する新たな治療戦略を報告しました。

 本研究では、
(第一段階)FGFR4阻害剤BLU554*1を投与することで、膵臓がん細胞を老化細胞に誘導し、
(第二段階)老化細胞除去剤(セノリティック薬)により老化したがん細胞を除去する
 という二段階治療を行いました。

 その結果、BLU554と、セノリティック薬の併用で高い治療効果が得られることが明らかになりました。

 研究グループは以前、研究用試薬BLU9931による膵臓がん細胞の老化誘導を報告しましたが*2BLU554は、すでに臨床試験で安全性と肝臓がんに対する効果が確認されているFGFR4阻害薬で、今回の成果は膵臓がんに対する臨床応用にむけて重要な知見となります。
 本研究成果は、英国 BioMed Central(現 Springer Nature)社のオープンアクセス誌BMC Cancerにオンライン掲載されました(2025年12月24日付)。

研究目的

 膵臓がんは世界的に予後不良ながんで、日本でも5年生存率が約10%と他のがん種と比べて極めて低い水準にとどまっています。膵臓がんは高齢者に多く発症するため、超高齢社会が進むにつれて今後、患者数の増加が予測されています。現在の化学療法は効果が限定的で、新規治療法の開発は喫緊の課題です。
 治療標的としたFGFR4*3(線維芽細胞増殖因子受容体4)は膵臓がんの早期再発や予後不良に関与する分子として注目され、患者の30~50%で高発現が確認されています。FGFR4を抑える新規治療戦略の検討は、臨床的にも重要です。

研究成果の概要

 BLU554を膵臓がん細胞に投与したところ、
  ● 細胞増殖の抑制
  ● 細胞老化の誘導 が確認されました。

 さらにBLU554で老化誘導されたがん老化細胞*4セノリティック薬で除去することで、治療効果が大きく増強されることが分かりました(図1)。老化細胞は分裂しないため一見無害にみえますが、SASP因子(老化関連分泌因子)と呼ばれる炎症性物質を放出し続け、がん増殖や転移を促進させる可能性があります(図2)。そのため、老化細胞の除去が治療強化の鍵になります。

 本研究は従来の「がん細胞を直接攻撃する治療」と異なり、
 ①がん細胞を意図的に老化させる → ➁老化細胞を選択的に除去する
 という新しいアプローチで、特にFGFR4高発現型の難治性膵臓がんに有効な可能性が示されました。

研究の意義

 膵臓がんの治療抵抗性を克服するための新たな二段階治療戦略として、FGFR4阻害剤による老化誘導×セノリティック薬による除去が有望であることが示されました。
 本研究は培養細胞を用いた基礎研究ですが、臨床試験の可能性につながる重要な成果です。

図1BLU554およびセノリティック薬による二段階治療の概念図



図2 BLU554によって誘導された膵臓がんの老化細胞の特徴

 

掲載論文

雑誌名:BMC Cancer
論文名:Cytotoxic and senescence-inducing effects of BLU554 in pancreatic ductal adenocarcinoma: An in vitro study
(和訳:BLU554による膵管腺がんにおける細胞毒性および細胞老化誘導作用:培養細胞を用いた検討)
著者:藤原 正和1、進士 誠一1, 2、志智 優樹1、野中 敬介1、長谷川 康子1、高橋 公正3、六反 啓文4、新井 冨生4、石渡 俊行1
1. 東京都健康長寿医療センター 研究所 老年病理学研究チーム 高齢者がん研究
2. 日本医科大学消化器外科
3. 日本獣医生命科学大学
4. 東京都健康長寿医療センター 病理診断科
掲載日:2025年12月 24日
論文番号(DOI): https://doi.org/10.1186/s12885-025-15317-z
論文公開URL: https://link.springer.com/article/10.1186/s12885-025-15317-z

用語解説

*1 「BLU554」
FGFR4の機能を特異的に阻害する薬剤。肝細胞がんの臨床試験で、安全性と腫瘍縮小効果が報告。

*2「BLU9931」
研究用FGFR4阻害剤。2020年に本グループが膵臓がん細胞の老化誘導作用を報告。
FGFR4 inhibitor BLU9931 attenuates pancreatic cancer cell proliferation and invasion while inducing senescence: Evidence for senolytic therapy potential in pancreatic cancer. Cancers (Basel). Sasaki N, Ishiwata T et al., 2020 Oct 14;12(10):2976. doi: 10.3390/cancers12102976.

*3 「FGFR4」
*FGF-19と特異的に結合する受容体。膵臓がんの30~50%で高発現し、再発リスク・予後不良と関連。
*FGF-19とは、内分泌型の線維芽細胞増殖因子の一つで、主に胆汁酸代謝やエネルギー代謝の調節に関わる重要なホルモン様タンパク質。

*4 「老化細胞」
不可逆的に分裂を停止した細胞。紫外線、酸化ストレス、炎症、薬剤などで誘導され、SASP因子を分泌して周囲組織に悪影響を与える。


プレス概要

(問い合わせ先)
東京都健康長寿医療センター研究所
老年病理学研究チーム・高齢者がん研究
研究部長 石渡 俊行
電話 03-3964-1141
Email: tishiwat@tmig.or.jp