2026.3.13
東京都健康長寿医療センター研究所の石神昭人副所長、東洋大学の佐藤綾美准教授、笠原皐月大学院生らは、加熱式たばこのエアロゾルが、肺線維芽細胞における老化関連遺伝子の発現に燃焼式たばことは異なる影響を与えることを明らかにしました。この研究成果は、加熱式たばこの健康への影響を評価する重要な知見となります。本研究は、「Geriatrics & Gerontology International」(電子版)に2026年3月8日付けにてオンライン掲載されました。
● 加熱式たばこエアロゾルは、標準の燃焼式たばこ煙と比較して細胞毒性が低いことが確認された。
● 高濃度に調製した加熱式たばこエアロゾルによる遺伝子発現変化は、一部で燃焼式たばこと共通していた一方、異なる変化も認められた。
● 加熱式たばこエアロゾルの反復曝露は燃焼式たばこと同様に、単回曝露よりも遺伝子発現により大きな変化をもたらした。
● これらの遺伝子発現変化は、複製老化および薬剤処理による老化誘導モデルでみられる変化と類似していた。
● 本研究成果は、喫煙関連疾患リスクにおける加熱式たばこの位置づけを検討する上で重要な知見となる。
喫煙は、肺がんや肺気腫をはじめとするさまざまな呼吸器疾患のリスク因子です。近年、従来の紙巻きたばこに代わり、たばこ葉を燃焼させずに加熱してエアロゾルを発生させる「加熱式たばこ」が広く普及しています。しかしながら、加熱式たばこが生体に及ぼす影響については、依然として十分に解明されていません。
本研究では、呼吸器疾患の発症に関与する「細胞老化」に着目し、加熱式たばこエアロゾル成分が細胞の老化関連遺伝子発現にどのような影響を与えるのかを明らかにすることを目的としました。これにより、加熱式たばこの健康リスクを科学的に評価するための基礎的知見を得ることを目指しました。
本研究では、ヒト肺由来の線維芽細胞を用いて、加熱式たばこエアロゾル抽出液と燃焼式たばこ煙抽出液の曝露による影響を解析しました。その結果、加熱式たばこエアロゾルは燃焼式たばこ煙と比較して細胞毒性が低いことが確認されました。一方で、高濃度に調製した加熱式たばこエアロゾルで反復曝露を行うと、燃焼式たばこ同様に細胞老化に関連する遺伝子(CDKN2A、IL1B、MMP1 など)の発現が増加し、その変化は複製老化および薬剤処理による老化誘導モデルでみられる変化と類似していました(図1)。また、一部の遺伝子発現変化は燃焼式たばこと共通していたものの、両者で異なる影響も明らかとなりました。これらの結果から、加熱式たばこは燃焼式たばこと比較して急性の細胞毒性は低いものの、高濃度での繰り返し曝露により燃焼式たばことは異なる細胞老化に関与する分子変化を引き起こす可能性が示唆されました。
本研究は、分子レベルの解析により、加熱式たばこエアロゾルが細胞老化に関連する遺伝子発現へ影響を及ぼす可能性を示しました。加熱式たばこは、従来の燃焼式たばこと比較して有害性が低い可能性から、世界的に利用が拡大しています。しかし、その長期的な健康への影響については、十分に分かっていません。細胞老化は、慢性閉塞性肺疾患、肺線維症、がんなどの発症や進展に関与することが知られており、本研究成果は、加熱式たばこの健康リスクを評価する上で重要な知見となります。今後、「喫煙」における燃焼式たばこと加熱式たばこの区別や位置づけ、公衆衛生政策の議論に向けたさらなる研究が望まれます。
【掲載誌】
「Geriatrics & Gerontology International」(電子版)(2026年3月8日)
https://doi.org/10.1111/ggi.70436
【掲載論文の英文表題と著書およびその和訳】
Effects of aerosol extract from heated tobacco products on senescence-associated gene expression in human lung fibroblasts
Ayami Sato, Satsuki Kasahara, Akihito Ishigami * (*corresponding author)
加熱式たばこエアロゾル抽出液がヒト肺線維芽細胞の老化関連遺伝子発現に及ぼす影響
佐藤綾美、笠原皐月、石神昭人* (*責任著者)
(図1)肺線維芽細胞に対する加熱式たばこエアロゾル抽出液の曝露は、複製老化および薬剤処理による老化誘導モデルで変化のみられたCDKN2AやMMP12遺伝子発現に影響を及ぼした。なお、加熱式たばこエアロゾル抽出液は、燃焼式たばこ煙抽出液よりも高濃度(10倍)で曝露した結果を示す。
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