<プレスリリース>アルツハイマー病の新薬「レカネマブ」、全国2,600人超を調査 ―世界最大規模の全例調査中間報告:適切な検査により9割以上が安全に治療を継続―

2026.3.23

発表のポイント

日本の医療現場で治療を受けた2,672人の患者データをまとめた論文が掲載されました。これは、実社会におけるデータとしては世界最大規模の報告となります。本研究成果はエーザイ株式会社がレケンビの承認条 件として実施している特定使用成績調査(全例調査)によるものです。この全例調査はレケンビを投与したすべての医療機関の協力を得て実施されており、当センターの岩田淳医師が医学専門家として中間集計結果を発表しています。
懸念される副作用である「脳のむくみや微小な出血」の発生率は7.1%でしたが、その大部分は無症状であり、重い症状に至ったケースはごくわずかでした。
● 点滴に伴う発熱などの反応は17.0%に見られましたが、多くは初めて点滴を受けた直後に起こり、数日以内に回復しています。
治療開始から半年(28週)が経過した時点での治療継続率は約93%と高く、多くの患者さんが安全に治療を続けられていることが確認されました。

研究内容の背景と目的

 アルツハイマー病は、脳内に「アミロイドβ」という原因物質が少しずつ溜まることで進行します。レカネマブは、この原因物質を脳内から取り除き、病気の進行を遅らせることを目指す新しいお薬です。
 新しいお薬は、限られた条件で行われる「治験」を経て承認されますが、実際の病院では、年齢や体質がさまざまな患者さんに使用されます。レカネマブはアルツハイマー病での全く新しい働きを持つお薬です。そのため、承認の条件として、国内でこのお薬を使ったすべての患者さんを対象に、副作用の発現状況や長期間お薬を使った時の症状の変化を調べる「全例調査」が行われています。本報告は、その大規模な調査の中間報告です。

調査結果の概要

 全国の医療機関でレカネマブの点滴を受けた2,672人(平均年齢76.0歳、軽度認知障害の方が約6割)について,治療開始から28週間の安全性データを中心に解析しました。
 
1.脳の画像に現れる変化(ARIA:アミロイド関連画像異常)
 アミロイドβを取り除くお薬に特有の副作用として、脳のむくみ(ARIA-E)や微小な出血(ARIA-H)が起きることがあります。
 ●脳のむくみ: 3.0%の方に見られましたが、重篤なケースはなく、大部分はご本人の自覚症状がありませんでした。
 ●微小な出血など: 5.2%の方に見られました。1cm以上の出血を伴う重篤なケースは2名(0.1%)にとどまり、それ以外の大部分は無症状でした。

2.点滴時の反応
 点滴中やその直後に、発熱、頭痛、悪寒などが起こることがあります。全体の17.0%の方にこうした反応が見られましたが、その多くは1回目の点滴後に集中していました。また、約8割のケースでは3日以内に症状が回復・改善しています。

3.治療の継続状況
 副作用への懸念がある一方で、定期的なMRI検査で安全を確認しながら治療を進めることで、開始から半年(28週)時点での治療中止率は7.3%にとどまりました。92.7%という多くの方が治療を継続できています。

Google Geminiにて作成

今後の展望と患者さんへのお知らせ

 今回の調査結果から、実際の医療現場においても、事前の治験で予測された範囲内で安全に治療が行われていることが確認されました。お薬の副作用は存在しますが、適切な検査(MRIなど)によって早期に発見し、休薬などの対応をとることで、重症化を防ぐことが可能です。
 この調査は今後も最長3年間にわたって続けられ、患者さんの記憶力や日常生活を送る力がどのように保たれるかについても、詳しく調べていく予定です。

掲載論文

Interim analysis of all-case post-marketing surveillance study in Japan: lecanemab in patients with early Alzheimer's disease, Atsushi Iwata, Yukinori Sakata, Kinuyo Koizumi, Akira Endo, Weijie Kuang, Kenta Sumitomo, Mika Ishii, The Journal of Prevention of Alzheimer's disease

 URL:https://doi.org/10.1016/j.tjpad.2026.100541

用語解説

アルツハイマー病: 認知症の原因として最も多い疾患です。脳内にアミロイドβという物質が蓄積し、その結果神経細胞の機能が低下し、細胞が死滅することで認知機能障害を引き起こすと考えられています。

アミロイドβ: 神経細胞が活動すると産生される短いペプチドと言われるタンパク質の一種です。適切に分解、排泄されないと脳内に蓄積してしまいます。

レカネマブ: 毒性の高いアミロイドβに対して作られた抗体薬で、脳内でアミロイドβに結合し、取り除く働きがあります。

プレス概要

(問い合わせ先)
地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター
副院長(兼 脳神経内科部長、認知症未来社会創造センター長) 岩田 淳
電話 03-3964-1141
メール atsushi_iwata@tmghig.jp