人間には感染やがん細胞をはじめとする異物から体を守る組織があります。この組織を構成しているリンパ球ががん化することを悪性リンパ腫といいます。
悪性リンパ腫には様々な病型があり、症状や治療法はそれぞれ異なります。病型は大きくはホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫の2つに分けられ、さらに非ホジキンリンパ種は、B細胞リンパ腫とT細胞リンパ腫に分けられます。また、非ホジキンリンパ腫は臨床的には病気の進行の速さによって、年単位で進行するタイプ、月単位で進行するタイプと週単位で急速に進行するタイプに分けられます。
悪性リンパ腫が発症する原因としては、EBウイルスなどのウイルス、ピロリ菌などの細菌、関節リウマチなどの自己免疫疾患、関節リウマチによく使用されるメトトレキサートなど免疫不全を引き起こす薬剤治療があげられますが、多くの場合原因が明らかではありません。
リンパ節の腫大が最もよく認められる症状で、体表から触れる頸、腋窩、鼠径部などに腫瘤として自覚されます。多くの場合痛みを伴うことはありません。
リンパ節は身体のいたるところにあります。胸部、腹部など身体の奥でリンパ節が腫大することがあります。例えば胸部の病変では、心臓や大血管が集まっている縦隔に腫瘤を作って心臓や動脈、静脈を圧迫することがあります。肺に腫瘤が出現し、肺がんとの区別がつきにくいこともあります。腹部の病変では胃、小腸や大腸に腫瘤を作って出血、腸閉塞や消化管に穴が開く穿孔などを起こします。肝臓や脾臓にリンパ腫細胞が入り込んで腫大したりすることもあり、腹部膨満をきたすこともあります。また、全身症状として発熱、体重減少、寝汗が認めらえることがあります。このように様々な臓器に悪リンパ腫は発症しますので、多彩な症状を起こします。そのため血液内科以外の診療科で診断されることも少なくありません。
単にリンパ節が触れるから、あるいはCTなどでリンパ節が腫れているからとすぐに悪性リンパ腫とは断言できません。悪性リンパ腫の確定診断には、腫れているリンパ節や腫瘤を外科的に取り出して、その組織を顕微鏡でみることで診断します。このことを病理診断といいます。
胃カメラ、大腸鏡、CTや超音波(エコー)を使い、針を刺して組織をとる場合もあります。検査によっては入院が必要になる場合があります。また、骨髄検査、髄液検査という検査も必要です。診断が確定すると、治療方針の決定や病気の広がり(病期)を診断するために、PET/CTや骨髄穿刺をおこないます。大きく分けると、横隔膜という胸と腹を分ける線より片側だけに病気がある場合を限局期(I 期・II 期)といい、横隔膜の両側、つまり胸側にも腹側にも病気がある場合を進行期(III 期・IV 期)といいます(図1)。それぞれの病期において、「発熱、体重減少、寝汗」といった全身的な症状(=B症状)があるかないかで、AとBに分けます。
図1
悪性リンパ腫の治療は悪性リンパ腫のタイプ、病期によって異なります。また、治療には比較的副作用が少なく、高齢者にも安全に施行可能な治療から、複数の抗がん剤を併用する多剤併用化学療法や造血幹細胞移植(多くの場合自己造血幹細胞移植)のように副作用の頻度が高く、負担のかかる治療まで様々です。同じ悪性リンパ腫であっても治療法がまったく異なる場合があります。