老年期うつ病は、65歳以上の高齢者に生じるうつ病を指します。成人早期のうつ病との違いとしては、①出現しやすい症状が異なること、②他の病気との区別が難しい場合があること、③薬の副作用が出やすいことなどが挙げられます。
特に認知症との区別が重要ですが、うつ症状自体は認知症の前駆症状や合併症状としてみられることもあり、判断に迷うこともあります。他にもせん妄、薬物の影響、体の病気の影響などとの区別にも注意が必要です。
老年期うつ病は脳の機能以外にも、身体機能の低下・社会的役割の縮小・喪失体験など複数の心理・社会的状況が影響することがあります。また、認知症の初期症状としてうつ症状が出ることもあります。
症状は成人早期のうつ病と同様に抑うつ気分(気分の落ち込み)と興味・喜びの喪失が中核症状ですが、その他に以下のような症状が多くみられます。
うつ病の診断自体は診断基準をもとに問診で行うのが基本です。現在の症状や経過を丁寧に問診し、身体的診察を行います。うつ病の症状を呈している場合、身体疾患によるうつ状態や認知症の鑑別のために、血液検査、頭部画像検査を行います。うつ状態の評価としてGDSやCES-Dなどの自記式評価尺度、重症度評価としてHAM-Dなどの他覚的評価尺度が用いられることもあります。
薬物療法としては、主に選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)などの抗うつ薬が使用されます。効果不十分な場合には抗うつ薬に他の作用の薬物を組み合わせる増強療法も検討します。いずれにしても副作用を避けるため、少量から開始して少しずつ増やすことが重要です。その他、状態に応じて電気けいれん療法(ECT)や反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)も行われます。当院では高齢の方の電気けいれん療法を積極的に行っています。
非薬物療法としては、症状が比較的軽い場合は運動療法が有効です。また心理・社会的に負担になっている問題があれば、それに対する環境調整などを行います。また、認知行動療法や回想療法などの精神療法を行うこともあります。
老年期うつ病の予防には、身体的・心理的な健康の維持が重要です。具体的には生活習慣病の予防と管理、家族や友人・地域とのつながりを保つこと、喪失体験などのストレスがあった際の心理的サポートなどが挙げられます。早期の発見と適切な対応が、うつ病の重症化を防ぐことに繋がります。