<プレスリリース>「コロナ禍における自殺率は、感染拡大第1波で下落した後に、第2波では、女性、子どもや青年を中心に上昇」

発表内容の概要

 東京都健康長寿医療センター研究所の岡本翔平特別研究員は、香港科技大学の田中孝直研究員と共同で、我が国の新型コロナウイルス感染症流行下において、自殺は、感染症「第1波」が起こった2月〜6月では14%低下したのに対し、「第2波」が発生した7月以降では16%増加したことを明らかにしました。第2波では、特に、女性(37%)、子ども・青年(49%)の自殺率の上昇が顕著でした。本研究成果は、グリニッジ標準時間の2021年1月15日午前10時(日本時間の1月15日19時)に国際誌Nature Human Behaviourに掲載されました。

研究目的

 我が国における新型コロナウイルス感染症流行下における自殺の動向を評価すること。

研究成果の概要

 世界的に流行する新型コロナウイルス感染症は、感染症そのものの脅威のみならず、経済的損失や社会関係の制限などを通じて、我々の生活のあらゆる側面に影響を与えています。それらの帰結の一つとして、人々の精神的健康状態に悪影響を及ぼし、自殺リスクを高める可能性があることが各国で危惧されています。本研究では、「地域における自殺の基礎資料(2016年11月から2020年10月まで)」等を用いて、準実験デザインにより、感染症流行下の自殺の動向を評価しました。分析の結果,感染症拡大の初期段階である2020年2月から6月においては、月当たりの自殺率は14%低下したことが明らかになりました(図1)。この背景には様々な要因が複雑に絡み合っていることが考えられますが、人々の心理・行動的反応、政府による所得保障、労働時間の減少や学校閉鎖などが関与している可能性があると考えられます。しかしながら、「第2波」が発生した7月以降では、16%上昇し、特に女性、子どもや青年で増加が顕著であることが明らかになりました。

研究の意義

 本研究の意義は、代表性のあるデータにより、準実験アプローチを用いて、各年月に特異的に発生し、自殺に関連しうる要因(季節性など)をコントロールした上で、感染症流行下における自殺率の変動を評価したことです。新型コロナウイルス感染症は、今後もしばらくの間は、我々の生活へ影響を及ぼし続けることが懸念されます。したがって、感染症の拡大予防や政府による補償といった経済対策のみならず、特に、女性、子どもや若年層など感染症による経済や生活の面での影響が大きいことが懸念される人々のためにも、自殺の予防につながる効果的な策を打ち出すことも、重要な公衆衛生課題です。

論文情報

本研究の内容を引用する際には、下記原文の出典を明記してください。
Tanaka T, Okamoto S*: Increase in suicide following an initial decline during the COVID-19 pandemic in Japan.
Nature Human Behaviour. (2021). https://www.nature.com/articles/s41562-020-01042-z
(*: Corresponding author)


図1: Difference-in-Differences design(差の差分の分析)による新型コロナウイルス感染症拡大後の自殺率変化
図1: Difference-in-Differences design
注)IRR= incidence rate-ratios

プレス資料

日本語による論文の解説

(問い合わせ先)
東京都健康長寿医療センター研究所
社会参加と地域保健研究チーム
岡本翔平(特別研究員)・小林江里香(研究副部長)
電話 03-3964-3241 内線4258 Email: sokamoto@tmig.or.jp