2025.3.25
東京都健康長寿医療センター認知症支援推進センター研究員、福祉と生活ケア研究チーム協力研究員の小野真由子は、高齢者が抱く感謝を測定する尺度を開発しました。妥当性および信頼性が確認された高齢者専用の尺度の開発は、国内外で初めてとなります。研究成果は「老年社会科学」(2025年1月20日発刊)に掲載されました。
記
日本は超高齢社会にあり、高齢者の数は今後も上昇することが見込まれています。高齢者が豊かで幸せに暮らせる社会を実現するため、高齢者の心身のウェルビーイングに関する研究の重要性が高まっています。
そのような中、感謝という心理が健康感や幸福感を高める要因として着目され、高齢期の適応や人生の受容にもつながる重要な心理であることが指摘されています。感謝に関する研究は、若年層を対象とした研究が欧米で増加している一方、高齢者を対象にした研究は非常に少なく、日本においてはほとんど行われていませんでした。
感謝が高齢者の心や体にどのような良い効果をもたらすのか、様々な検証を行うためには、感謝の強さを測定するための適切なツールが必要になります。そこで高齢者専用の感謝尺度を開発することにしました。
本尺度を開発するにあたり、2回の調査を実施し、妥当性と信頼性を検証しました。
1回目の調査では、都内在住の60歳以上の高齢者(予備調査95名、本調査500名)を対象に、書面でアンケート調査を実施しました。アンケート調査では、高齢者の感謝を10項目で構成されるモデルとして設定し、その適合度指数※1を測定するとともに、感謝と関連が予測される指標(精神的健康や生活満足度等)と正の相関関係を確認することで、妥当性を確認しました。
2回目の調査では、調査会社に登録している70代から80代の高齢者(200名)を対象にオンライン調査を実施し、別の集団においても、同じ10項目のモデルが成立するかを検証し、妥当性を再度確認しました。
また、2回の調査結果について、本尺度の各項目の内容に一貫性があるかを示すアルファ係数※2を算出し、いずれも、信頼性が高いことを示す値(0.9以上)を確認しました。
高齢者感謝尺度
「高齢者用感謝尺度」は、上記で検証した高齢者が抱く感謝の強さを測定するための10問の質問で構成されています。
本尺度の特徴は感謝を3つの側面(①自分にとって価値があると思えるものへの気づきを問う3問、②何かに対するありがたい気持ちを問う2問、③得たものを提供してくれた相手だけでなく、様々な人に返したいという願望を問う5問)から捉えて測定する点です。
各質問に対し、非常に当てはまる(7点)から全く当てはまらない(1点)の7段階で答え、その合計得点で感謝の強さを評価します。得点の幅は10点から70点で、得点が高いほど感謝を強く抱いていることを示しています。
今後、感謝は、自尊感情や楽観性などのポジティブ心理や、高齢者が抱えがちな身体症状への影響の検証にも活用されることが見込まれています。加えて、感謝には他者との良好な関係性を促進する機能があると言われており、人とのつながり(ソーシャルネットワークの広さやソーシャルサポートの受領感)に与える効果の検証にも役立てられると考えられます。そのほかにも、病院に入院している患者や福祉施設に入所している利用者が抱く感謝と健康や幸福度との関係、ボランティア・就労など社会活動を行っている高齢者が抱く感謝と活動のモチベーションや生きがい等との関係などの検証にも活用が期待できます。
これらは研究フィールドで活用するうえでの一例ですが、本尺度を一般の方々にもぜひ知っていただき、お答えいただくことで、日々の生活や人生の中にある大切な人やものとは何かについて改めて振り返るきっかけにもなると考えています。
本尺度の開発は、高齢者の身体・心理・社会など多側面から感謝をテーマとした研究を促進し、高齢者の心と体の健康維持やそれぞれのより良い人生に繋がっていくものになると考えています。本尺度が普及することにより、高齢者福祉や健康管理の現場における実践的な応用に役立てられることを目指しています。
(注)
※1 モデルとデータの当てはまり具合を数値で表す指標のこと。
※2 信頼性の指標となる信頼性係数の1種であり、心理尺度に使われた項目の回答にどの程度一貫性があるかを示します。通常、アルファ係数が0.8以上であれば一貫性があると見なされます。
小野真由子・長田久雄(2025).高齢者用感謝尺度の作成と妥当性および信頼性の検討.老年社会科学,46(4),327-337
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