結腸と直腸を併せて大腸と呼びますが、その壁は、内側(便が通る側)から粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層(しょうまくかそう)、漿膜(しょうまく)と5つの層に分けられており、大腸がんとは、粘膜より発生した悪性腫瘍です(図1)。
この内、拡がりが粘膜下層までに止まっているものを早期がん、それより深い層まで浸潤しているものを進行がんと定義しています。
がんは進行すると、深い層に浸潤するだけではなく、リンパ節や、他の臓器(肝臓、肺など)に転移したり、治療後に再発することもあります。
大腸癌研究会編.患者さんのための大腸癌治療ガイドライン 2022年版.2022年,金原出版.より作成
図1 大腸の壁の構造
出典:国立がん研究センターがん情報サービス
https://ganjoho.jp/public/cancer/colon/about.html
発生する場所については、人種による違いがあり、日本人では左側(S状結腸、直腸)に多いとされています(図2)。
図2 大腸の構造
出典:国立がん研究センターがん情報サービス
https://ganjoho.jp/public/cancer/colon/about.html
現在、日本人の死因の第一位は悪性新生物(いわゆる"がん")です。その中で、大腸がんは臓器別では男性の2位、女性の1位であり、男女合計では年間5万人以上が亡くなっており、これは肺がんに次いで2位です。
大腸がんの原因には、喫煙、飲酒、肥満、運動不足、野菜や果物の摂取不足等の生活習慣が関与していると考えられています。また、女性では、加工肉や赤肉の摂取により大腸がんの発生する危険性が高くなる可能性があるともいわれています。遺伝性の大腸がんもありますが、その頻度は全大腸がんの5%程度とされています。
症状としては、血便、便通異常以外に、がんが大きくなって腸閉塞症状(腹痛、嘔吐、腹部膨満、腹鳴)を呈することもあります。また、転移先の臓器症状(肝腫瘍、胸部異常陰影、黄疸など)で指摘されることもあります。
がん検診や人間ドックでよく用いられるのは便潜血検査です。この検査は、便を採取するだけの非常に簡便な検査であり、通常2日法(2日に分けて2回採取)が採用されています。免疫法の場合、ヒトの血液のみに反応する検査法なので、食事や薬剤の影響を受けません。陽性となるのは腫瘍(良性、悪性)、痔核、炎症などです。
便潜血検査で陽性となった場合、精査の方法としては、内視鏡検査、造影検査(バリウム注腸検査)、採血(腫瘍マーカー)、CT、MRI、FDG-PET、超音波検査など、数多くの方法があります。
この内、診断をつける上で最も確実な手段は内視鏡検査(大腸カメラ)です。他の造影検査のように"影"を見るのではなく、直接観察できることに加え、組織の一部を採取することにより診断を確定することも可能です。しかし、良いことばかりではなく、前処置としての大量(2L)の洗浄剤の内服、挿入の際の疼痛、手技に伴う偶発症(穿通・穿孔など)、などの問題もあります。挿入の際の疼痛に対しては、外来でも鎮痛剤、鎮静剤を用いることにより、苦痛を軽減することが可能です。
どの検査を選択するかは、体調や症状、メリット、デメリットを考慮の上、担当医師とよく相談して決めていきます。
大腸がんの治療方針は、その進行度(ステージ)により異なります。がんの進行度は、がんの壁深達度、リンパ節転移、遠隔転移の3つの因子の組み合わせで、ステージ0~4までの5段階に分けられます。治療法には、内視鏡的治療、外科療法、放射線療法、化学療法などがあります。これらの治療を単独、時には複数を組み合わせて選択していきます。
内視鏡治療は原則として、リンパ節転移の可能性がほとんど無く、腫瘍が一括切除できる大きさと部位にある場合、選択される治療法です。この治療が適応されるのは早期がんに限られ、最終的に切除標本を顕微鏡検査でよく調べ、必要に応じて追加の切除術が必要となることもあります。
外科療法はがんの周囲正常組織を有る程度含めて切除(リンパ節、及び浸潤している近隣臓器を含む)する方法で、根治性と同時に機能温存にも配慮しています。近年、多くの症例で低侵襲手術(身体の負担を減らした手術)として腹腔鏡下手術が行われています。
化学療法は近年、目覚ましく発展し、個別化医療(一人一人に合った治療を選択する)も導入され、症例に拠っては、かなり良い成績が得られるようになってきました。
このように、多くの治療法がありますが、どこの病院でも、この全てが受けられるとは限りません。どの治療をどこで受けるかについては、担当医師と良く話し合って、治療方針を決めて行きます。このように、医療者と患者さんが様々な治療選択肢の中から、最適と思われる選択を相談しながら決めていくことを、Shared Decision Making(SDM)(シェアードディシジョンメーキング)といいます。
現在、全国レベルで問題となっているのは、便潜血陽性で要精査とされても受診率が7割程度と、他のがん検診より低いことです。血便はもとより、検査で陽性の結果が出た場合は必ず大腸カメラを含めた精査を受けましょう。
勿論、陽性になったからと言って、必ずがんが有るわけではありません。逆に所謂"痔主さん"の場合、便に血が付いても、いつものこと、と気にしないかもしれません。しかし、奥にがんができているかもしれません。血便や便潜血陽性は、その原因を調べないことには白黒、どちらとも断言することはできません。
もしかしたらがんがみつかるかも知れない、と考えると、検査を受けることが怖いかも知れません。しかし、そのことを放置して、手遅れになることの方が、もっと怖いことです。大腸がんに限らず、治療の基本は早期発見、早期治療です。症状が出る前に見つかればベストですし、早い時期に見つかれば、それだけ治療法の選択肢も多くなります。積極的に健診、がん検診を利用し、必要であれば人間ドックも活用しましょう。
口を開けていても、"健康"は降ってきません。
自分の"健康"を守るのは自分自身です。