患者さんの意思決定を支援する~呼吸器内科が目指していることをご紹介します~
フレイル予防センター長 荒木厚(あらき あつし)
当センターのフレイル外来は2017 年に東洋で初めて開始された外来です。これは2014 年に日本老年医学会が介入により再び健常な状態に戻るという可逆性という意味を込めて、frailty の日本語訳を「虚弱」から「フレイル」に変更した3 年後に当たります。当初は循環器内科の石川先生、糖尿病・代謝内科の田村先生と私の3 人が中心となって開始し、糖尿病、高血圧などの心血管代謝疾患で定期通院している患者さんで疲れやすい、歩く速度が遅くなった、身体活動が少なくなったという人に受診を勧めました。現在は年間約950 人の患者が受診しています。
フレイル外来では医師が約30 分でフレイルの症状の問診、身体診察を行った後に、臨床心理士が握力、歩行速度などの身体機能、体組成、認知機能の検査を行い、うつ、身体活動量、栄養、薬剤、社会状況について聴取しています(図1)。即ち、フレイル外来は高齢者の総合機能評価(Comprehensive Geriatric Assessment;CGA)を行う外来でもあります。したがって、現在は外科系患者さんの手術前後のフレイル評価や高齢診療科や呼吸器内科などの入院患者のCGAの検査を行う部門としても機能しています。また、地域から高齢者診療科では紹介された外来患者はフレイル外来でCGA を行い、その結果に基づいて、治療を行っています。来年度からはフレイル外来に地域からの紹介枠を作って高齢診療科の医師が担当し、その機能を拡大していく予定です。
フレイル外来の魅力は高齢者のこれまでの人生を含めて、すべての領域の状態を評価し、フレイルの原因を明らかにし、対策を立てることができることです。高齢者がフレイルになる要因は身体機能低下、認知機能障害、うつ、栄養、薬剤、社会環境など様々であり、また、糖尿病、肥満、心不全、慢性腎臓病、慢性閉塞性肺疾患、骨粗鬆症、変形性関節症、肝硬変、貧血などの疾患やそれらが重なったマルチモビディティもフレイルのリスクとなり、その治療をフレイル予防の観点から見直すことができます。食事指導や減薬などのポリファーマシー対策も行います。
さらに重要なことは地域の社会サービスにつなげることで、運動、食事、社会参加を継続してできるようにすることです(図1)。「介護保険」の要介護認定を申請し、デイケアなどのサービスを受けていただくことが多いです。フレイル外来の詳細な検査結果に基づく意見書で適切な要介護度の認定が得られた場合もあります。最近は「通いの場」で運動を勧める機会が増えており、特に板橋区は「10 の筋トレ」ができる場所が110 以上あり、社会資源に恵まれています。
フレイル外来では、研究所の先生と共同でフレイルの危険因子に関する研究も行っています。多くの論文(22 編)を英文誌に発表し、うつ、社会ネットワーク低下、脊柱起立筋の筋肉量低下、起立時の血圧上昇などがフレイルの関連因子になることや脳局所の白質統合性異常、血圧の減少、DASC-8 によるカテゴリーⅡ、座位から立位への動作のスピード低下、GDF15 高値などがフレイル発症の危険因子となることを明らかにしました(図2)。また、病院における外科系のフレイル研究、スマートウォッチの研究にも貢献しています。
フレイル外来は多くの診療科や研究所の先生とネットワークを形成しながら、フレイル予防センターの部門の一つとして機能し、また、高齢者医療の理想の外来をめざして、さらなる発展を図っていきたいと考えています。