第182号

その薬、見直してみませんか?高齢者と向き合うポリファーマシー対策

肺がんの治療は大きく進歩しています

心不全看護外来のご案内

その薬、見直してみませんか?高齢者と向き合うポリファーマシー対策

総合内科・高齢診療科 部長 岩切 理歌(いわきり りか)

 薬は病気を治療し快適な生活を送るうえで大変重要なものです。しかし、薬の数が増えると薬の副作用のリスクが上がることや飲み残しが増えることが明らかとなっています。このように、複数の薬を内服することで生じる問題はポリファーマシーと呼ばれ、高齢者医療の重要な課題となっています。

ご自分の持病と内服薬について理解を深めることが重要です

 治療すべき疾患の数や疾患の状態によって必要な薬の数は異なります。特に、心臓疾患、糖尿病、神経・精神疾患、膠原病の患者さんは6種類以上の薬が必要となることが少なくありません。治療のためには指示されたとおりに内服することが重要です。ご不安なことがある場合には主治医に遠慮なく相談してください。

薬を飲み忘れることはありませんか?

 内服の回数が多くなると誰でも飲み忘れることが増えます。残薬の数が合わなくなってきたら遠慮なく主治医に相談してください。薬を変更することにより内服の回数を減らしてもらえる場合もあり、内服管理が楽になります。

今はもう必要ない薬を飲み続けていませんか?

 症状がなくても疾患の治療や予防のために必ず内服しなければならない薬がある一方で、胃腸薬、便秘薬、頻尿の薬、痛み止め、睡眠導入薬など、症状の改善を目的として処方される薬もあります。症状が改善し今は必要ない薬や、内服しても症状の改善につながっていない薬がある場合には、主治医とよく相談し薬の中止や変更を検討してはいかがでしょうか。生活習慣の改善やストレスの緩和で症状が改善する場合もあります。

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薬剤科 科長 島崎 良知(しまざき よしとも)

ポリファーマシー外来もご利用ください。

 お薬について、どこに相談すればよいのかわからないという場合は、ポリファーマシー外来をご利用ください。火曜日と木曜日の午後に開設していますのでお気軽にご予約下さい。

ポリファーマシー対策の本質と薬剤師の役割

 ポリファーマシー対策は、単に薬の数を減らすことが目的ではなく、高齢者一人ひとりの生活背景や健康状態、価値観を踏まえた上で、最適な薬物療法を提供するプロセスです。薬剤師には、「この薬をやめてよいか」ではなく、「この薬は本当に必要か」「より適した治療法はないか」と問い続ける姿勢が求められます。

高齢者の薬物療法における配慮

 特に高齢者では、加齢に伴う薬物動態・薬力学の変化、認知機能やADLの低下、家族や介護者からの支援状況など、薬の効果やリスクに影響する要因が多岐にわたります。したがって、処方意図の確認にとどまらず、服薬状況や副作用の有無、飲み間違い、服薬負担など、実際の使用状況を丁寧に把握することが不可欠です。

チーム医療の中での連携と役割

 さらに、対策を効果的に進めるためには、医師、看護師、管理栄養士、リハビリ職など多職種との連携が欠かせません。退院支援カンファレンスなどに積極的に参加し、薬学的視点から具体的かつ実践的な提案を行うことが重要です。その際には、エビデンスに基づいた判断と、患者中心の視点の両立を常に意識する必要があります。

「減らす勇気」と「残す責任」

 薬剤師は、「減らす勇気」と「残す責任」の双方を担う専門職です。処方設計に主体的に関わり、患者様の安全と生活の質を見据えたうえで、継続的な評価と対話を重ねながら、多職種チームの信頼されるパートナーとしての役割を果たしていくことが、真のポリファーマシー対策の実現に繋がると思います。何かご疑問点がありましたら、薬剤師にご相談ください。

肺がんの治療は大きく進歩しています

呼吸器内科 部長 齋藤 朗(さいとう あきら)

 令和7年4月より着任しました、呼吸器内科の齋藤朗と申します。今回は、当科で行っている肺がんの薬物療法について紹介させていただきます。 

肺がんは男性、女性ともに多くみられます

 日本人が一生のうちにがんと診断される確率は、男性が62%、女性が49%であり、およそ2人に1人です。男性では前立腺がん・大腸がんに次いで、女性では乳がん・大腸がんに次いで、肺がんの罹患数が3番目に多いです(令和2年のデータ)。年齢を重ねるごとに罹りやすく、70~90歳代の患者さんが多いです。

肺がんの治療は、外科治療・放射線療法・薬物療法に分けられます

 どの治療法を選択するかは、組織診断(腺がん・扁平上皮がん・小細胞がん)、臨床病期(ステージ)、全身状態や合併症、そして患者さん本人の意思や、周囲からの支援状況によって決まります。
 肺がんの診断や治療には、外科医・放射線治療医・内科医・緩和ケア医・病理医といった、複数の診療科の医師が関わっています。当院では呼吸器外科・放射線治療科・呼吸器内科・病理診断科が集まって、患者さんの治療方針について相談するカンファレンスを毎週開催しています。さらに、看護師・薬剤師・管理栄養士・理学療法士・臨床心理士・ソーシャルワーカーなど、様々な職種のスタッフも、肺がん治療にチームとして関わっています。
 呼吸器内科では、おもに肺がんの薬物療法を行っています。治療薬は「分子標的治療薬」「抗がん剤(細胞障害性抗がん薬)」「免疫チェックポイント阻害薬」に分けられます。抗がん剤は、免疫チェックポイント阻害剤あるいは分子標的治療薬と同時に用いられることもあります。さらに、抗がん剤の治療と同時に放射線療法が行われることもあります。

気管支鏡検査による肺がんの診断

 最も適した治療薬を選択するために、組織診断とあわせて、遺伝子異常(EGFR遺伝子変異など)の有無や、免疫チェックポイント阻害薬の効果を予測するタンパク質を調べることが役立ちます。
 呼吸器内科では、肺がん組織の一部を採取する目的で、(超音波)気管支鏡検査を行っています。仮想気管支鏡ナビゲーションや気管支腔内超音波断層法などの技術によって、より安全で確実な検査が可能になっています。
 さらに検体を採取してから直ぐに、臨床検査技師が顕微鏡で観察することで、診断の精度が向上しています。当科では病理診断科と共同で、迅速かつ感染リスクのない細胞染色法「改変Ultrafast Papanicolaou染色」を開発し、活用しています。

 

肺がんの薬物療法の進歩

 肺がんの免疫療法として、免疫チェックポイント阻害剤のニボルマブが、2015年に初めて認められました。現在では6種類の免疫チェックポイント阻害剤が用いられており、単独で使われるだけでなく、抗がん剤との併用、手術前や手術後の治療、抗がん剤および放射線治療の後、などの様々な場面でも使われており、肺がん治療は大きく様変わりしています。
 肺がんの原因となっている特定の遺伝子変異が見つかる場合もあり、これを狙い撃ちする分子標的治療薬の進歩も目覚ましいものがあります。肺がんに対する分子標的治療薬は、2010年には数種類のみでしたが、現在では25種類ほどに増え、毎年のように新薬が登場しています。

高齢者機能評価による治療方針の検討および意思決定の支援

 肺がん治療の選択肢が増えつづけている中で、患者さん一人ひとりに合った治療方針を提案し、納得していただく必要があります。当科では肺がん患者さんに対して「高齢者機能評価」を行っており、身体的、精神・心理的、社会的な背景を把握するよう努めています。さらにその結果を、適切な治療法の検討や、ご本人の意思決定の支援に活用しています。

心不全看護外来のご案内

慢性心不全看護認定看護師 堀川 由加里(ほりかわ ゆかり)
新上 優美(しんじょう ゆみ)

心不全と上手に付き合うために

 心不全は一度よくなっても、生活習慣によって再び悪化することがあります。再発を防ぐためには、日々の体調管理や生活の工夫が大切です。心不全看護外来では、専門知識をもつ看護師が、患者さんやご家族と個別に面談し、心不全が悪化しないための生活をサポートします。

具体的には次のようなサポートを行います

当院で使用している心不全管理手帳を用いて、説明します。

  • 毎日の体調チェックの方法
  • 食生活のアドバイス(栄養士にも相談しながら支援します)
  • 薬を正しく飲むためのアドバイス
  • 体調に合わせた運動の紹介
  • 介護サービスの案内
  • 医師に聞きたいことをサポート

心不全看護外来の詳細

【日時】 木曜日 13:30〜17:00
【場所】 1階外来12番ブロック
【対象】 退院後の心不全患者さん
当院に通院中の心不全患者さん
【担当】 慢性心不全看護認定看護師
心不全療養指導士
【予約】 外来主治医または病棟看護師
外来看護師へご相談ください

心不全の管理って「大変だな」「これでいいのかな」と不安に感じることもあると思います。
そんな時は、どうぞお気軽にご相談ください。
また、「こんなふうに過ごしたい」といった思いも、ぜひ私たちにお聞かせください。
希望の暮らしを続けられるよう、一緒に考えさせていただきます。