分子老化制御研究

メンバー

リーダー 副所長 石神 昭人
研究員 佐藤 綾美、土志田 裕太
非常勤研究員 滝野 有花

キーワード

老化、老化制御、抗老化、老化バイオマーカー、寿命、加齢指標タンパク質(SMP30)、グルコノラクトナーゼ(GNL)、ビタミンC、ビタミンC合成不全マウス、活性酸素、レドックス、機能性食品、抗酸化、シングルセル解析、老化細胞、ペプチジルアルギニンデイミナーゼ(PAD)、シトルリン化タンパク質、認知症、アルツハイマー病、プリオン病、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性腎臓病(CKD)

主な研究

  1. 加齢指標タンパク質SMP30の機能解明
  2. 老化とビタミンC
  3. シングルセル解析による老化関連遺伝子、老化細胞の同定
  4. 栄養と老化
  5. シトルリン化分子と老年病態

研究紹介

1. 加齢指標タンパク質SMP30の機能解明

加齢に伴い私たちの身体機能は低下し、様々な故障も増加します。このような加齢現象の背後には身体を構成する様々な分子や臓器機能の変化が存在します。私たちは、加齢に伴い発現が変化する種々の遺伝子群やタンパク質群を解析することにより、高齢者が有する身体機能の不全を早期に、しかも正確に検知し、抑制するための方法論の開発を目指しています。

今までの研究から、加齢に伴い減少する生体分子、加齢指標タンパク質SMP30を発見し、老化における重要性を明らかにしてきました。SMP30は、老化バイオマーカーとしての有用性も期待されています。現在、SMP30の未だ明らかになっていないビタミンC生合成以外のヒトでの機能の解明を目指して研究を行っています。

SMP30の発見.jpg

2. 老化とビタミンC

最近の研究から、SMP30はビタミンC生合成に必須の酵素、グルコノラクトナーゼ(GNL)であることが分かりました。SMP30/GNL遺伝子を欠損したマウスは、ヒトと同様にビタミンCを体内で合成できません。また、ビタミンCが不足したマウスは、寿命が短く、早期に死亡します。私たちは、コラーゲン繊維の構築や活性酸素種の消去など、多様な働きをもつといわれるビタミンCの生理機能をひとつひとつ明らかにすることにより、ビタミンCの抗老化作用を解明していきます。

VC不足寿命.jpg

3. シングルセル解析による老化関連遺伝子、老化細胞の同定

近年、老齢動物の組織には、細胞の機能が衰えた「老化細胞」の存在が明らかになってきました。この老化細胞を特定し、個々の老化細胞の性質を調べることは、複雑な老化機構の解明に繋がります。私たちは、1細胞発現解析(Nx1-seq: Next generation 1 cell sequencing)を用いて老化関連遺伝子を1細胞レベルで包括的に探索、同定します。私たちが定義する「老化関連遺伝子」とは、老化の機構に直接関与する遺伝子だけでなく、間接的に発現変動する、老化機構に直接関与しない遺伝子も含みます。また、同定した老化関連遺伝子を指標にして老齢動物の組織に存在する老化細胞を同定し、その機能低下の機構を解明します。

老化関連遺伝子 9_Ishigami_201802.jpg

4. シトルリン化分子と老年病態

タンパク質の修飾は、情報伝達、遺伝子発現、細胞分化や老化に深く関わっています。特に、タンパク質中のアルギニンがシトルリンに変わるシトルリン化反応は、タンパク質が本来持っている電荷や高次構造に著しい変化をもたらします。タンパク質シトルリン化反応は、ペプチジルアルギニンデイミナーゼ(PAD)という酵素により触媒されます。ヒトでは5種類のアイソフォームが存在することが分かっています。
今までの研究から、アルツハイマー型認知症患者の脳ではシトルリン化タンパク質が早期に出現し、病状の進行程度に応じて、その量が増加することを明らかにしてきました。また、関節リウマチでもシトルリン化タンパク質が疾患の発症に関与することが報告されています。現在、アルツハイマー型認知症の臨床診断薬はありません。私たちは、シトルリン化タンパク質やPADを指標とした臨床検査診断薬を開発し、認知症や老年病などの早期診断薬になりうるか研究を行っています。

シトルリン化タンパク質とアルツハイマー病.jpg

主要文献

  1. Yamaguchi T, Yamamoto Y, Egashira K, Sato A, Kondo Y, Saiki S, Kimura M, Chikazawa T, Yamamoto Y, Ishigami A, Murakami S. Oxidative Stress Inhibits Endotoxin Tolerance and May Affect Periodontitis. J Dent Res. 2023 Mar;102(3):331-339.
  2. Takisawa S, Takino Y, Lee J, Machida S, Ishigami A. Vitamin C Is Essential for the Maintenance of Skeletal Muscle Functions. Biology (Basel). 2022 Jun 23;11(7):955.
  3. Hung YL, Sato A, Takino Y, Ishigami A, Machida S. Influence of oestrogen on satellite cells and myonuclear domain size in skeletal muscles following resistance exercise. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2022 Oct;13(5):2525-2536.
  4. Palko SI, Saba NJ, Mullane E, Nicholas BD, Nagasaka Y, Ambati J, Gelfand BD, Ishigami A, Bargagna-Mohan P, Mohan R. Compartmentalized citrullination in Muller glial endfeet during retinal degeneration. Proc Natl Acad Sci U S A. 2022 Mar 1;119(9):e2121875119.
  5. Takigawa M, Tanaka H, Obara T, Maeda Y, Sato M, Shimazaki Y, Mori Y, Ishigami A, Ishii T. Utility of the Berlin Initiative Study-1 equation for the prediction of serum vancomycin concentration in elderly patients aged 75 years and older. Pharmazie. 2022 Feb 1;77(2):76-80.
  6. Sato A, Takino Y, Yano T, Fukui K, Ishigami A. Determination of tissue-specific interaction between vitamin C and vitamin E in vivo using senescence marker protein-30 knockout mice as a vitamin C synthesis deficiency model. Br J Nutr. 2022 Sep 28;128(6):993-1003.
  7. 佐藤綾美、石神昭人 : 新型コロナウイルス感染症とビタミンC. ビタミン 96, 480-482 (2022)
  8. 石神昭人 : ビタミンとアンチエイジング−基礎編. 美容皮膚医学 BEAUTY 5, 44-49 (2022)