ヘルシーエイジング研究

メンバー

テーマリーダー  研究副部長 村山 洋史
研究員  野中 久美子、野藤 悠、横山 友里、上野 貴之
研究助手  天野 秀紀
非常勤研究員・技術員

阿部 巧、齋藤 尚子、須田 拓実、高瀬 麻以、中村 由佳

非常勤職員

新井 祐美、奥山 拓郎、千明 詩菜、西村 恵美子、細井かれん

キーワード

ヘルシーエイジング、フレイル予防、健康づくり、社会参加、就労社会環境、健康格差、健康無関心、疫学研究、地域介入

主な研究

 ヘルシーエイジングとは、「身体的、精神的及び社会的な機能を保ちながら自立した生活を送ること」と定義されます。当テーマでは、「ヘルシーエイジングを推進する社会システムの構築に向けた研究をフレイル・認知症の一次予防の観点から取り組む」という大目標と2つの中目標を掲げています。

これらの目標を達成するために、3つの研究の柱を立てています:

  1. 基礎的研究:介護予防・フレイル予防に向けた疫学研究
  2. 応用的研究:介護予防・フレイル予防の手法検証
  3. 挑戦的研究:働きかけが難しい層へのアプローチ方法の検討

企業・自治体・研究者との共同研究、および大学院生募集

 当テーマでは、企業や自治体、研究者の皆様と積極的に連携し、ヘルシーエイジングに資する研究を推進していきたいと考えています。また、これから学びを深めていく大学院生を受け入れ、研究指導も積極的に行っています。

<共同研究>
 様々な民間企業やNPO、自治体と共同研究を行い、エビデンスの構築や普及啓発を進めています。それらは、商品開発や政策立案に活かされています。また、国内外の大学や研究機関との共同研究も行っています。

<大学院生>
 連携大学院制度を利用できます。リストにない大学院については柔軟に対応いたしますので、ご相談ください。また、日本学術振興会特別研究員として参画希望の方もお待ちしています。

 下記の研究内容をご覧いただき、当テーマとの共同研究や大学院生受け入れにご興味のある方はお気軽にお問合せください(連絡先:E-mail: chiikihoken.t (at)gmail.com)。

研究紹介

1.基礎的研究:介護予防・フレイル予防に向けた疫学研究

 当テーマでは、群馬県草津町、埼玉県鳩山町・和光市、兵庫県養父市、宮城県気仙沼市をはじめとした高齢者の長期縦断コホートを保有しています。これらの長期縦断コホートを研究基盤とし、フレイル予防の三本柱である運動・栄養・社会参加に着目した疫学研究を行っています。また、三本柱の実践に関連する促進/阻害要因を個人・環境の両面から検討し、介入や社会実装に結びつけるための新たな疫学的知見の創出を行っています。自治体と連携しながら地域特性の異なる複数の地域を対象にすることにより、全国への知見の実装化を見据えています。詳細は後述の研究フィールドをご覧ください。

2.応用的研究:介護予防・フレイル予防の手法検証

 地域(自治体)、シルバー人材センター、介護施設等を調査フィールドとして、地域づくりを通じたフレイル予防のための社会システムの開発と実装化、高齢者就労における新たな機会創出に向けた研究等に取り組んでいます。基礎的研究で得られたフレイル予防の三本柱に関する知見を実社会に応用するという目的のもと、「地域」と「職域」の2つのフィールドで応用的研究を進めています。

1)地域づくりによるフレイル予防・改善のための社会システムの開発と実装化

① フレイル予防の拠点づくりによるアプローチの効果検証

2014年度より兵庫県養父市にて、「研修を受けたシルバー人材センターの会員が仕事として各地区に出張し、フレイル予防教室の立ち上げ・一定期間の運営を行う」というフレイル予防モデルを立案し、実践してきました。2022年度までに、市内の約6割の行政区にフレイル予防教室が立ち上がっています。これまで、その効果検証を行い、参加者個人に対するフレイルや要介護化の抑制効果を確認しています。

今後は、養父市および養父市シルバー人材センターと協働してこの取り組みを継続するとともに、さらに長期に追跡を行うことで地域全体への波及効果を検証し、フレイル予防の地方部・山間部モデルの確立を目指します。

② フレイル予防の"ちょい足し"プログラムの効果および実装戦略の検証

通いの場のフレイル・介護予防効果を高めるための手法の一つとして、既存の活動にフレイル予防の観点で不足している要素(筋力運動、栄養・口腔ケア等)を無理なく付加する「"ちょい足し"プログラム」を開発し、東京都内の複数の自治体に実装しています。

2)高齢者就労における新たな職域の開拓に向けた研究

 

① シルバー人材センターにおける新たな職域開拓および就業寿命延伸に向けた実証研究

2017年度から埼玉県シルバー人材センターと共同し、「魅力ある高齢者就労の職域の開拓および就労寿命(安全で健康に働ける期間)延伸」という目標を掲げ、養父市で開発したモデルが仕事として成立し、普及するかという視点で同モデルの普及可能性を検討しています。

② 福祉分野における高年齢介護助手の導入促進に向けた実証研究

介護の周辺業務支援を一部担う高年齢介護助手に着目し研究を進めています。2019年には三重県の介護老人保健施設(以下、老健施設)にてパイロット調査を、2020年には老健施設を対象とした全国調査を実施しました(約3,600施設対象)。さらに、2023年には、対象施設を特別養護老人ホーム、グループホーム、有料老人ホームにまで拡大し、同じく全国調査を実施しました(合計11,100施設対象)。

介護助手として就労することが、その後の健康維持やフレイル予防に寄与するか、また、高年齢介護助手を導入することで施設の経営面にどのような好影響をもたらしているかを検証しています。これらの成果をもとに、国や地方自治体との連携や政策提案を目指しています。

3.挑戦的研究:働きかけが難しい層へのアプローチ方法の検討

 挑戦的研究では、これまでの研究や実践活動では対象になりにくかった層をターゲットにしています。すべての人がヘルシーエイジングを達成するために、健康づくり・フレイル予防に資する社会参加活動を十分に促せていない社会的孤立状態にある高齢者、および健康づくりや社会参加に消極的な無関心層の意識変容、行動変容を促すためのアプローチ方法の開発に向けた研究を行っています。     

1)孤立高齢者へのアプローチ方法の研究


① 孤立高齢者対象とした実態調査

これまで、地域包括支援センターなど専門職の視点から、見守りが必要な高齢者の状態像をまとめた「高齢者見守りチェックシート」を開発したり、コロナ禍の社会的孤立や孤独の推移をモニタリングする研究を行ってきました。しかし、孤立に至った過程や孤立高齢者が今の状態をどのように捉えているかは明らかにできておらず、未だ有効な支援策は提示できていません。現在、孤立高齢者本人へのインタビュー調査を行い、孤立状態に陥る、あるいは抜け出せないボトルネックを解明し、専門職が行う孤立対策への示唆を得ることを目指しています。

2)無関心層へのアプローチ方法の研究


① ナッジを活用した健康無関心層へのアプローチに関する研究

ナッジとは、行動科学の知見に基づき、望ましい行動を自発的に促すアプローチの総称で、「人は合理的な選択を常にするわけではない」という前提に基づき、人が持つ意思決定の癖(認知バイアス)を利用して行動変容を促す仕掛けです。いわゆる「健康無関心層」や「必要性を分かっているがなかなか一歩が踏み出せない層」へのアプローチとして公衆衛生分野での期待は高く、注目を集めています。

神奈川県横浜市や新潟県十日町市など様々な自治体と共同し、ナッジを活用した健康行動(例えば、健診受診や社会参加)の促進効果の検証を行っています。

② オンラインプラットフォームを活用した社会参加活動のマッチング支援

これまで、多忙な現役就労者を社会参加活動へ取り込むことに成果を上げている「プロボノ」*1活動に着目し研究を行ってきました。プロボノワーカーを対象とした定量的・定性的調査では、地域団体の課題やニーズを業務として切り出すことにより、活動に求められるスキルや専門性、想定される作業内容と所要時間、責任の範疇が明確になるために、多忙な現役就労世代が参加しやすい活動であることが明らかになりました。

これらの知見に基づき、自治体、社会福祉協議会等と協働しながら、オンラインマッチングシステムを活用して無関心層やフレイル高齢者を就労的活動(役割を伴う雇用労働や有償・無償のボランティア活動)へと促すシステムの実装とその有効性の検証を行っています。

*1プロボノ:職業上のスキルや知識を活かし期間限定で地域団体が抱える課題解決を支援する新たなボランティア形態。