アウトドアの趣味と皮膚の前癌性病変

老年病理学研究チーム 高齢者がんグループ 田久保海誉、相田順子
東京都健康長寿医療センター皮膚科 種井良二

定年退職後の趣味として新たに家庭菜園、釣り、ウオーキングやスポーツなど、総じてアウトドアでの活動を選ばれることが多いようです。また、若い時の趣味を復活させたりすることも多いです。さらにお歳を重ねても今から趣味を持つ方も多いと思います。

ところでアウトドアの趣味では、日焼けが気になります。皮膚の疾患は必ずと言っていいほど、日光曝露部に発生するか、日光に当たらない皮膚に発生するかについて、皮膚科の教科書には書かれています。それほど皮膚科疾患と日光曝露は原因的関係があります。

顔などの日光曝露部に発生する日光角化症という前癌病変があります(図1)。顔ばかりではなく耳(顔の一部でしょうか)、手の甲、腕に発生します。扁平上皮癌の前癌病変です。若い人にはできてきません。高齢者で頻度が高い疾患です。高齢者の多いことから、毎日毎日、日に当たる慢性的な日光曝露が原因と考えられています。実際、農業従事者に多いです。また、日光が原因と考えられていますから、女性よりも外の仕事が多い男性に多く発生します。曇り空の少ない沖縄県で多いことが証明されています。

図1:日光角化症の肉眼写真

図1:日光角化症の肉眼写真
鼻にできています。多稜形から円形であまり隆起していません。
表面はザラザラしています(東京都健康長寿医療センター皮膚科)。

大きさは2cm以内であることが多いです。肉眼的に表面はザラザラしています。ざらざらして硬く隆起することもあります。

皮膚は真皮と表皮からできています。顕微鏡で見てみましょう(図2)。表皮、真皮と皮下組織が見えます。

図2:日光に当たらない皮膚(腹部)の顕微鏡写真

図2:日光に当たらない皮膚(腹部)の顕微鏡写真
表皮に変化はなく、真皮はピンクのコラーゲン線維でできています。
皮下組織の脂肪細胞は見えません。

真皮は厚いコラーゲン線維でできています。この写真ではピンクに見えます。皮のカバンやランドセルは、この真皮からできています。表皮は細胞の入れ替わりが高頻度で1年に何度も細胞が入れ替わります。このため、死んでしまった細胞は垢や汚れとなり身体からはがれます。この表皮層に前癌病変や癌は発生します。表皮の癌は時間が経過して進行すると真皮層に至ります。さらに時間が経つと皮下脂肪、血管やリンパ管経由で遠い臓器や組織に転移していきます(遠隔転移)。

日光曝露部の皮膚を顕微鏡で見てみましょう(図3)。前癌病変や癌の出てくる表皮は日光の当たらない部分と変わりはありません。しかし、真皮は青く変化しています。この変化を日光変性と呼びます。日光老化と呼ぶ人もいます。ただ歳をとるだけではなくて、日光に原因がある老化です。

図3:日光に当たる皮膚(顔面)の顕微鏡写真

図3:日光に当たる皮膚(顔面)の顕微鏡写真
表皮はやや褐色がつよく日焼けがあります。
真皮は青くなり(日光変性)コラーゲン線維が融けかけています。

次に前癌病変である日光角化症の近くの皮膚(図4)と日光角化症(図5)を顕微鏡で見てみましょう。真皮は日光に曝露していたことが明らかです。なぜなら日光変性があるからです。正常と異なりピンクではなくて青く見えます。表皮には細胞核が大きい細胞があり表面にはザラザラしていたことがわかる濃いピンクの角化物質が厚くなっています。

図4:日光角化症の近くの皮膚(顔面)の顕微鏡写真

図4:日光角化症の近くの皮膚(顔面)の顕微鏡写真
表皮はやや褐色がつよく日焼けがあります。
真皮は青くなり(日光変性)コラーゲン線維が融けかけています。

図5:日光角化症の顕微鏡写真

図5:日光角化症の顕微鏡写真
正常表皮よりも厚く細胞核の大きな細胞が見えます。
日光角化症の下の真皮は青くなり(日光変性)コラーゲン線維が融けかけています。

なぜ日光に当たる表皮には前癌病変が出てくるのでしょうか。これは日光の中の紫外線(UV)、特にいわゆるUV-B領域(波長280-320nm)の紫外線が表皮細胞の核の中の染色体を構成するDNAに損傷をもたらすからです。前癌病変である日光角化症には染色体の異常が見つかります。また、正常のヒト細胞の染色体数は46本ですが、減少や増加があります。このような染色体の異常を持つ細胞を総称して染色体の不安定性があると表現しています。つまり、染色体の不安定性とは、染色体の数に変化が出たり、染色体同士が癒合してしまうことです。

それではなぜ染色体の不安定性が起きてしまうのでしょうか。染色体の安定を保つものである染色体の末端にあるテロメアの長さを測定してみました。テロメアは加齢により短くなり、過度に短縮すると染色体の不安定性を起こします。 大人の日光の非曝露部、曝露部と日光角化症を持つ表皮でテロメア長を測定しました。テロメア長は、日光角化症を持つ表皮<日光の曝露部の表皮<非曝露部の表皮の順で短いか短い傾向にあることがわかりました。つまり、日光角化症はテロメアの短い表皮の中でもさらにテロメアが短い表皮から発生することがわかりました。また、真皮の線維芽細胞は日光角化症のある皮膚で最も短いことがわかりました。

アウトドアの趣味では長時間日光にあたります。一方、ビタミンDは紫外線の刺激によって体内で合成され、丈夫な骨をつくるのに欠かせない重要な働きをしていています。不足すると、骨粗鬆症になるリスクが高くなります。このため一定時間の日光浴は大事ですし、ビタミンDを含む食物(魚類など)を摂ることも大事です。しかし、美白のためばかりでなく、前癌病変や癌の発生を防ぎ容貌を美しく保つためには、毎日、長時間の日光被曝はよくないと考えられ、必ず紫外線対策が必要です。若い頃から日光にあたっていた方は特に紫外線対策が必要です。

また、周囲の皮膚と境界が明瞭で色やさわった時の感触が異なる病変ができてきた時は、大きくならないうちに皮膚科を受診して下さい。放置して構わない病変か、治療する必要がある病気かを知ることが大事です。

老年病理学研究チームの高齢者がんグループでは、加齢によりテロメアが必ず短くなること、癌はテロメアの短縮した上皮から発生することを多く論文の中で証明してきました。この耳より研究情報よりも詳しい情報を必要な皆様は、グループ独自のホームページをご覧ください。

以上の研究結果は以下の私どもの英文論文の中に書かれています。

Ikeda H., Aida J., Hatamochi A., Hamasaki Y., Izumiyama-Shimomura N., Nakamura K., Ishikawa N., Poon S.S., Fujiwara M., Tomita K., Hiraishi N., Kuroiwa M., Matsuura M., Sanada Y., Kawano Y., Arai T., Takubo K. Quantitative fluorescence in situ hybridization measurement of telomere length in skin with/without sun exposure or actinic keratosis. Hum Pathol 2014; 45: 473-480.

図1-5のアートワークは藤田 喜弘写真技師が行いました。