筋トレの効果を予測する-「ラクに効果的に」を目指して-

自立促進と精神保健研究チーム 畑中 翔

2024.8.1

はじめに

 加齢に伴って骨格筋の量が減少することはよく知られています。骨格筋は運動や日常の移動に直接的に関わる運動器であるだけでなく、身体全体の代謝プロセスにおいても重要な役割があります。そのため加齢による変化に抗い骨格筋の量を維持・増進することは身体障害や慢性疾患のリスクを低減する上で有効と言えます。

 幸いなことに、骨格筋は身体の中でも改善しやすい組織の一つです。具体的には運動、とりわけレジスタンストレーニング(筋トレ)に取り組むことで年齢に関係なく骨格筋の量を維持・改善できることがわかっています。

 しかし筋トレというとキツい運動のイメージがあると思います。キツさを想像しただけでやりたくないなと思う方もいらっしゃるでしょうし、血圧の上昇や関節への負担が気になるという方もいらっしゃると思います。これまでの筋トレに関する研究でも「重たいウエイトを使うか、もしくは限界まで追い込む」ことができればほぼ確実に効果が得られるとわかっています。しかしラクに実施できて、さらに効果的な方法というのは実はあまり分かっていません。

 このトピックスでは、ラクで効果的な筋トレのプログラムを見つけたいという思いで私たちが行った研究をご紹介します。

筋トレのプログラムの構成要素と標準法

 筋トレのプログラムは「反復回数」、「負荷の大きさ」、「動作のスピード」、「セット数」などで構成されます(表1)。これらの構成要素を効果的なトレーニングになるように組み合わせます。ほぼ確実に効果を得るためには「8回〜15回程度で限界がくる負荷をかけて、しっかり追い込み、それを3セット実施する」というのが筋トレのいわば標準法として知られています。

 よく「スクワットを10回やりましょう」などの表現を耳にします。これは「反復回数」の情報です。もし10回やるのが精一杯、という方がこれを実施した場合、そのトレーニングは効果的だと思われます。しかし本当は30回以上できるのに10回で止めているのだとしたら、残念ながら効果を得られる可能性は低くなります。このような場合、「負荷の大きさ」を上げて10回で限界となるようにすれば、やはり効果的に実施することができます。負荷となるようなおもりが身の回りにない、もしくはおもりを安全に使う自信がない場合は「動作のスピード」をゆっくりとすることで効果的に実施することができます1)。実際にやってみていただくと良くわかりますが、同じ負荷の大きさであっても、動作をゆっくりと行うことで限界までの回数が少なくなります。このように、負荷強度や速度を調整し、8回〜15回程度で限界がくるトレーニングを3セット繰り返すことでトレーニングを効果的に実施できます。

 私たちの目標であるラクで効果的な筋トレの探索は、こういった標準法に捉われず、「反復回数」、「負荷の大きさ」、「動作のスピード」、「セット数」などを柔軟に組み合わせて効果的なプログラムを構成することです。

トレーニング効果を数理モデルで予測する

 あるプログラムが効果的かどうかを調べるには、そのプログラムで筋トレを一定期間、複数の方に実施してもらい、トレーニングの前後でどれくらい骨格筋の量が増えたか評価する必要があります。しかし筋トレをどの程度ラクにやって良いのか見当がつきませんし、そもそもラクの基準も個人によって異なるので、膨大な数のプログラムについてそれが効果的かどうか検討する必要があります。これは時間や労力がかかりすぎて現実的ではありません。

 そこで、任意のプログラムにおけるトレーニング効果(骨格筋量の増加率)の予測を試みました。これまでの動物モデルの研究結果から、「速筋線維をなるべく沢山動かすこと」が骨格筋量の改善に重要であることが推察されました2)。骨格筋は大別して遅筋線維と速筋線維の2種類あり、速筋線維とは大きな力を出す時や素早い動作を行う時に動員される筋肉です。日常生活においては動きを急に止める(ブレーキ)などの動作で動員されるので転倒の防止でも活躍します。また加齢に伴い骨格筋の量は全体的に減少しますが、遅筋線維よりも速筋線維が減少しやすい傾向にあります。ですから筋トレで速筋線維をしっかり動かすことで骨格筋の量を改善していくことが重要です。

 こうしたことから、トレーニング効果を予測するためには「筋トレ中に速筋線維がどれくらい活動したか」を調べることが重要となりますが、これを測定する方法がありません。そこで、これまでに得られた骨格筋に関する生理学的知見を数式化して、筋トレのプログラムを実施したときに速筋線維がどれくらい活動(=筋力を発揮)するかを予測できる数理モデル3)を構築しました(図1)。

図1 数理モデルの概要

筋トレのプログラムと予測される効果

  構築した数理モデルを使うことで、トレーニング効果を予測することができます。筋トレを実施した研究論文というのは基本的に実施したプログラムの「反復回数」、「負荷の大きさ」、「動作のスピード」、「セット数」と、そのプログラムを実施した場合の「トレーニング効果」が報告されています。そこで、一定の基準で選定した筋トレの介入研究23篇で報告されている「反復回数」、「負荷の大きさ」、「動作のスピード」、「セット数」から、構築した数理モデルを用いて「そのプログラム中に速筋線維がどれくらい活動したか」を予測し、それと「トレーニング効果」がどのような関係にあるか調べました。その結果、トレーニング効果は「速筋線維の活動量(力×時間)」と「負荷の大きさ」で説明できることがわかりました(図2)。さらに負荷の大きさよりも速筋線維の活動量の方がトレーニング効果との関連が強いこともわかりました4)

図2 速筋線維の活動量および負荷の大きさとトレーニング効果との関係

 この関係を利用すると、幅広いトレーニングプログラムに対して、トレーニング効果の予測値を算出できるようになります。例えば、反復回数ではなく運動時間を規定した場合のトレーニング効果の予測は図3のようになります。

 この図から分かることは、1セットあたりの運動時間が長ければ負荷の大きさや速度を柔軟に決めて良いかもしれないということです。つまり「スクワットを30秒間やりましょう」という声がけは個人の体力ややり方によって効果が異なりますが、「スクワットを60秒間やりましょう」という声がけであれば個人の好きなペースでやってもらっても同じような効果が期待できるということになります。30秒でやりたいという方は負荷の大きさやスピードを工夫する必要がありますが、それでもある程度柔軟に決めることができます。

図3 数理モデルから予測した、負荷の大きさ、動作のスピードと筋量の増加率の関係

おわりに

 これまで、「8回〜15回程度で限界がくる負荷をかけて、しっかり追い込み、それを3セット実施する」プログラムが、確実にトレーニング効果を得られるいわば標準的なプログラムとして推奨されてきました。この研究では、トレーニング効果を生み出すためのプログラムが実は多様性に富んでいて、従来推奨されていたようなキツいプログラムに必ずしもこだわる必要がないことが示唆されました。

 ここでご紹介したものはあくまで数理的な予測ですので、本当に現実に則しているか検証すべき点はまだ残されていますが、各個人の状況や基準に応じて最適化されたトレーニングプログラムの提示につながるものと期待されます。

参考文献

1) Tanimoto M and Ishii N. Effects of low-intensity resistance exercise with slow movement and tonic force generation on muscular function in young men. J Appl Physiol 100(4): 1150-1157, 2006

2) Ishii N, Ogasawara R, Kobayashi K, and Nakazato K. Roles played by protein metabolism and myogenic progenitor cells in exercise-induced muscle hypertrophy and their relation to resistance training regimens. J Phys Fitness Sports Med 1(1): 83-94, 2012

3) Hatanaka S and Ishii N. Proposal and validation of mathematical model for resistance training. J Phys Fitness Sports Med 10(2): 109-118, 2021.

4) Hatanaka S and Ishii N. Effect of resistance training mainly depends on mechanical activation of fast-twitch fiber. J Phys Fitness Sports Med 11(5) 295-303, 2022.

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