認知症と共に暮らせる社会をつくる

自立促進と介護予防研究チーム 粟田主一

認知症と共に生きる高齢者の人口

認知症の有病率は年齢とともに急峻に高まることが知られています。現在、65歳以上の約16%が認知症であると推計されていますが、80歳代の後半であれば男性の35%、女性の44%、95歳を過ぎると男性の51%、女性の84%が認知症であることが明らかにされています(表1)。わが国は世界一の長寿国であり、認知症と共に生きる高齢者の人口は今後も増加し、2025年には高齢者の5人に1人、国民の17人に1人が認知症になるものと予測されています(表2)。

表1. わが国の性別・年齢階級別認知症有病率

表1. わが国の性別・年齢階級別認知症有病率

表2. わが国の認知症高齢者の将来推計人口

表2. わが国の認知症高齢者の将来推計人口

認知症の一般的な特徴

認知症とは、「何らかの脳の病的変化によって、認知機能が障害され、それによって日々の生活に支障があらわれた状態」と定義されています。

認知症の原因となる脳の病気はさまざまですが、全国の認知症疾患医療センターを受診した方の診断名の割合を見ると、アルツハイマー型認知症が最も多く、血管性認知症とレビー小体型認知症がこれに次ぐことがわかります(図1)。また、認知症ではありませんが、認知症の前駆段階で、軽度認知障害(MCI)と呼ばれる状態の方も数多く受診されています。認知症の原因疾患を診断して、疾患や障害の性質に合わせた医療を提供することはとても重要です。

しかし、医療だけでは認知症と共に暮らしていくことはできません。なぜならば、アルツハイマー型認知症をはじめとする多くの認知症疾患は進行性であり、今日の医療では、認知機能障害や生活障害そのものを回復させることは難しいからです。

認知症では、認知機能障害や生活障害とともに、さまざまな精神的・身体的・社会的な健康問題が現れて、そのことが生活の継続を困難にさせる要因になります(図2)。認知症と共に、本人も家族も、現在の生活を継続し、希望と尊厳をもって暮らすことができるように、認知症の初期段階で、障害の性質を理解し、本人や家族の生活ニーズを総合的にアセスメントし、必要な支援を統合的に利用できるように調整することはとても重要です。

図1. わが国の認知症疾患医療センターを受診する認知症患者の診断名別割合

図1. わが国の認知症疾患医療センターを受診する認知症患者の診断名別割合

図2. 認知症の臨床像:複雑化について

図2. 認知症の臨床像:複雑化について

認知症アセスメントシート(DASC-21)

地域の中で、認知症の際によく見られる認知機能障害や生活障害を簡便に評価できるように、私たちは「地域包括ケアシステムにおける認知症アセスメントシート(DASC-21)」を作成しました(表3)。DASC-21では、認知症の基礎知識や認知症のアセスメントの仕方についての研修を受けた専門職が、認知症の可能性がある本人や、本人のことをよく知る家族や介護者から、日々の暮らしの様子を聞きながら機能障害の性質をチェックします。

最初の2項目は導入の質問で採点はしません。これに続く1~21の21項目の質問を4件法(1点~4点)で評価し、採点します。概ねの目安として、選択肢の1、2を「正常域」、3、4を「異常域」とすることによって、障害されている認知領域や生活領域を簡便に把握することができます。DASC-21には以下のような特徴があります。①認知機能と生活機能を総合的に評価することができる、②家事や服薬管理、金銭管理など手段的な日常生活動作(IADL)の項目が充実しているので軽度認知症の生活障害を検出しやすい、③4件法で評価することによって機能変動をカバーしやすい、④設問が具体的であり、観察法によって評価できる、⑤簡便で、短時間で実施できる、⑥評価方法も単純である、⑦簡単な研修を受けることによって、認知症の基本的理解と認知症の総合的アセスメントの基本的技術を修得できる、⑧評価結果から臨床像全体をある程度把握することができる。

DASC-21は、31点以上で、感度91.3%、特異度82.5%で、認知症と非認知症を弁別できることが確認されています。なお、DASC-21の研修については、dasc.jpでE-ラーニングを開講しており、誰でも受講することができます。

表3. 認知症アセスメントシート(DASC-21)

表3. 認知症アセスメントシート(DASC-21)

国の事業として動き出した認知症初期集中支援チーム

認知症の初期段階で、総合的なアセスメントを行い、質の高い診断につなげ、診断後の支援が調整できる仕組みをつくりだすために、2014年度より国の事業として、区市町村を単位とする認知症初期集中支援推進事業がはじまりました(図3)。この事業は、地域包括支援センターなどを拠点にして、認知症サポート医と医療系・介護系の専門職がチームを組み、かかりつけ医や認知症疾患医療センターと連携しながら、認知機能障害や生活障害が認められる方の総合アセスメントを行い、必要に応じて診断へのアクセスを確保し、診断後支援を実践し、必要な支援を調整していこうというものです。

この事業では、DASC-21を用いて認知機能障害や生活障害を評価するとともに、本人の身体的・精神的・社会的な健康問題や家族介護者の状況も詳細に検討します。また、本人や家族の視点に立って、多職種が協働して、本人や家族の生活が継続できるように、必要な支援を統合的に調整します。

図3. 認知症初期集中支援推進事業

図3. 認知症初期集中支援推進事業

認知症と共に暮らせる社会をつくる

必要な支援を統合的に調整することをコーディネーションと呼びますが、それは本人、そして家族との対話からはじまります。そのような対話を通して、認知症の有無に関わらず、障害の有無に関わらず、障害の重症度に関わらず、人が人としてあたりまえに暮らしていくことができる地域社会とは何かということを改めて考えさせられます。多職種協働のコーディネーションの場は、認知症と共に暮らせる社会や文化を創り出す拠点であり、そのような事業を発展させていくことは、これからのわが国の認知症施策の中心的なテーマであろうと考えています。