地域でグループワークを実践する際のヒント集

自立促進と精神保健研究チーム 清水 恒三朗

2024.9.2

はじめに

 認知症予防や介護予防のための教室などで、多様な背景を持つ高齢者を対象にグループワークを実施する時には、様々な問題や配慮すべき状況が生じる場合があります。例えば、難聴など加齢に伴う症状によって会話に加わりにくい参加者や、うまく話をまとめるのが苦手で話が長くなってしまう参加者などがいます。私たちは、地域在住高齢者を対象とした認知症予防研究事業でのグループワーク運営の経験から、このような状況に戸惑い、対応に苦慮している進行役(以下、ファシリテーター)も多いのではないかと考えました。

 そこで本研究では、地域でグループワークを行う際に、配慮が必要だろうと想定される状況(以下、要配慮場面)を整理し、その対応策を検討しました。

要配慮場面の分類

 本研究では、まず地域でグループワークを行う運動指導者や教室スタッフを対象に、グループインタビューを行いました。インタビューでは、「グループワークを行う上で、対応に困ったことや何らかの配慮が必要だと感じたことはありましたか?」と尋ね、具体的な状況について自由に語ってもらいました。その後、その回答を元に、要配慮場面として以下の6つに分類しました。

耳が遠くてグループワークでの会話に入りづらい方がいる場面

加齢に伴って聞こえづらくなり、グループワークの話し合いに参加しづらい人がいることが報告されました。また、近くのグループの声同士が干渉して、さらに聞こえづらくなってしまう場合があるようです。

話がまとまらない、脱線するなどで長くなる方がいる場面

グループワークのテーマから逸れてしまったり、話がまとまらずに長くなる方がおり、他の参加者がうんざりしたり、近くの参加者同士で別の話をし始めたりしてしまうことが報告されました。このような場面では、グループとしてまとまりづらくなり、ファシリテーターはどのように対応すればよいか困ってしまうようです。

グループワークの時に否定的な発言をされる方がいる場面

グループワークの話し合いでネガティブな発言をするなど、参加意欲が低い方がいて、グループの空気が悪くなることが報告されました。このような場合、ファシリテーターはどのようにフォローすれば良いか戸惑うようです。

すぐには答えが出ないような難しい問題を話されてしまう場面

すぐに答えが見つからないような、プライベートな問題(夫婦関係や介護、経済的な悩みなど)を話され、ファシリテーターとして次のワークに進みづらくなったり、その個人の気持ちに寄り添うべきか、グループワークの進行を優先すべきか、対応に困ってしまうことが報告されました。

家族が一緒に参加している場面

夫婦そろっての参加や、家族が付き添いとして参加する場合、グループワークの中で、個人的な話が始まってしまい、他の参加者が話しづらくなることが報告されました。家族が同席することで助かる場面もありましたが、衝突につながる場面もあったということが報告されました。

書くのに時間がかかる方がいる場面

グループワークの前に書くことが必要な個人ワークをする際に、取り組むスピードは個人によって異なるため、思うように書き進められない方がいると、次のグループワークに進みづらくなる場合があることが報告されました。

 上記の要配慮場面について、高齢者に対するグループワークや集団療法に熟練した心理職等の有識者からなるワーキンググループを設定し、対応策を検討しました。それぞれの結果について、要配慮場面をQ、対応策をAとするQ&A方式でまとめました。

有識者ワーキンググループでの検討

例えば、上記③グループワークの時に否定的な発言をされる方がいる場面についてですが、具体的には、運動教室で個人目標を決めて話し合うようなワークをしたいのに、「この年で今更目標なんて言われてもね」とか「そんなことやってもしょうがない」と否定的な発言をされる場合があると報告されました。こういった場面では、ファシリテーターはどのように促したら良いか戸惑ったり、その参加者に対して「やる気がない非協力的な方だ」とネガティブな感情を持つこともあるようです。

有識者ワーキンググループでは、このような場面をどのように考えたら良いか、また、具体的な対策について話し合われ、その内容を以下のようなリーフレットにまとめました。

まとめ

 一方的な講義をするのではなく双方向的に学びを深めたい場合や、参加者同士の交流を促したい時に、グループワークという方法は非常に有効です。本研究では、グループワークを効果的に活用することができるように、ファシリテーターが対応に苦慮しやすい6つの要配慮場面を挙げ、それに対するポイントおよび対策案を検討しました。

作成したリーフレットは公開しております(https://researchmap.jp/kozaburo-S/published_works) 。
地域でのグループ運営にご活用ください。

参考資料

グループワークを円滑に進めるヒント集