「お達者健診」のデータから見た脚筋力低下予防のための生活習慣

自立促進と介護予防研究チーム  小島成実

高齢女性は筋力低下に注意

70歳、80歳と齢を重ねると、全身の筋力が低下してくるのは避けられないことです。筋力が極端に低下すると、食事や排泄、入浴などの基本的な日常動作に支障を来すことは想像がつきます。では、そこまで行ってしまう前ではどうでしょう。近所の買い物やバスに乗って出かけたりするのに筋力はあまり関係しないのでしょうか?私達の「お達者健診」の結果に基づけば、研究所に歩いて来られるような元気な高齢者に限っても、こうしたIADL(手段的日常生活動作)の能力には筋力が大いに関連しています。しかもこの傾向は、女性に顕著です。図1に示したように、女性では、膝を伸ばす力が低い人ほど、これらのやや高度な行動に障害を来している人の割合が高くなります(文献1)。これは女性の筋力が元々男性よりも弱いことが一因です。このように、筋力低下が機能低下に直結しやすい女性では、「サルコペニア(筋肉減少症)」がしばしば健康寿命への大きな障害として取り上げられます。

図1. IADL(手段的日常生活動作)に障害のある人の割合

お達者健診とは?

ところで、「お達者」とは便利な言葉です。「口の達者な子」はいるかもしれませんが、元気な子供に向かって「お達者だね!」とは言いません。この一語で、「元気な」「高齢者」を意味していることがよくわかります。便利なだけに、私達の研究所で行っている多くの健診や事業にその名前が冠されています。私達の研究チームでは、毎年秋に「お達者健診」を行っています。それは500~1000人くらいの数個のコホート(=追跡集団)を対象とした、観察的な研究です。「お達者健診」では、身体計測、体力、血液検査、精神機能の検査等、様々な心身状態のチェックができ、受診者には自己の健康状態の把握ができます。そして、研究者は貴重なデータを手にするという双方向のメリットにより成り立っています。以下に、今回のテーマ(=生活習慣と筋力)について、2008年から2012年にわたり追跡した、当初75歳以上の女性のコホートデータを御紹介します。2015年に「プロスワン」という英文学術雑誌に掲載された研究(文献2)です。

脚筋力の強い人に見られた生活習慣の特徴

2008年に75歳以上であった女性の脚の筋力と、同時点での生活習慣の関連を見てみました。このような手法を「横断的」分析ということがあります。しかし、レモンの断面ひとつからすべての種の位置を特定できないように、各要素の時間的関連や、因果関係などは明らかにできません。また、推測するにも注意が必要です。さて、図2は、ほぼ毎日外出する人と、それほど外出しない人の、膝を伸ばす筋力を比較した結果です。外出をよくする人のほうが高い筋力を持っていることがわかります。同様に、体操やスポーツをよくする人も高い筋力を保っていました。この結果の解釈には、「運動習慣が身に付いているから筋力の減少が抑えられている」という見方、そして「筋力が維持できているから、様々な身体活動を楽しめる」という二つの見方ができます。一方、それ以外の生活習慣、例えば、食べ物の取り方などは、筋力と直接的な関係を示しませんでした。

図2. 75歳以上の女性における外出頻度による膝伸展力の比較(引用文献[2]より改変)

脚筋力の低下が少なかった人に見られた生活習慣の特徴

私達はしばしば「どんな生活習慣を維持したら、あるいは何を食べたら、○○年後も健康でいられるのだろう」ということを知りたくなります。疫学的な観点からこの問いに答えを与えてくれる「かもしれない」のが、「前向きコホート研究」における「縦断的」な分析です。図3は、2008年当時に緑黄色野菜をほぼ毎日食べていた人と、それほど食べていなかった人で、その後2012年までの4年間に膝を伸ばす筋力の低下量を比較した結果です。毎日食べていた人のほうが筋力低下が抑えられていることがわかります。同様の結果は「大豆製品」でも見られました。これは年齢、当初の筋力、病気など、影響を与えそうな要素を考慮した分析の結果です。一方、2008年時点での運動習慣等によって、その後の筋力低下の程度が変わることはありませんでした。といって、もちろん、運動が無意味だという結論にはなりません。2008年に「ヨーイドン!」で運動を始めたわけではなく、長年積み上げてきた生活習慣をその時点で見ているに過ぎないからです。そのため、そう簡単にその後の筋力変化に反映されることはないと予想されます。

図3. 75歳以上の女性における2008年時点の緑黄色野菜の接種頻度による、その後4年間の膝伸展力低下量の比較(文献[2]より改変)

抗酸化物質や大豆製品がお勧め?

2008年時点で緑黄色野菜や大豆製品をほぼ毎日摂取していた人は、その時点では特に筋力が高いわけではありませんでした。しかし、その後の筋力低下が抑制されたというこの結果は、特に高齢期において、筋骨格系の健康維持にこれらの食品の重要度が増してくる可能性を示唆しています。緑黄色野菜には、ビタミンCやβ-カロチン等の「抗酸化物質」が豊富に含まれています。また、筋肉の健康維持に有効であるという報告は海外でも多くあります。一方、大豆製品は、海外では、そもそも日本人のように日常的に大豆製品を食べることが少ないためか、あまり報告がありません。また、一括りに大豆製品といっても、味噌や豆腐、納豆など、それぞれ異なった栄養素を含んでいます。例えば、骨代謝に重要な役割をはたす納豆に含まれる「ビタミンK」や、その他「大豆イソフラボン」や「大豆タンパク質」などの関与が考えられます。しかし、これらは、推測の域を出ないので、個々の食品に着目した今後の研究が必要です。

【引用文献】

  1. Kojima N, Kim H, Saito K, et al. Association of knee-extension strength with instrumental activities of daily living in community-dwelling older adults. Geriatr Gerontol Int. 2014;14: 674-680.
  2. Kojima N, Kim M, Saito K, et al. Lifestyle-Related Factors Contributing to Decline in Knee Extension Strength among Elderly Women: A Cross-Sectional and Longitudinal Cohort Study. PLoS One. 2015;10: e0132523.