熱中症予防は自己管理が肝心!

福祉と生活ケア研究チーム 協力研究員 野本茂樹

熱中症は、夏に起こる病気だと思っていませんか?

図1が示すように、熱中症は7月・8月の真夏の時期ばかりではなく、5月・6月や9月にも発生していることが分かります。2019年5月のように、急に暑くなったときなど、身体がまだ暑さに慣れていないことから熱中症を引き起こしてしまうこともあります。

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図1

また、熱中症は、屋外で起こる病気だと思っていませんか?

図2が示すように、救急搬送された方の半数以上は屋内で熱中症が発生しています。

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図2

また、50歳以上の熱中症で入院された方の半数以上は、日常生活をしている最中に発生しています(図3)。家の中に居るからといって熱中症にならないというのは、大きな誤解です。

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図3

Q. 熱中症を発症したとき身体にどのような症状が出るのでしょうか?

A. 熱中症は、以下の3つの段階に分けられます。
軽症1度(応急措置と見守り)(図4):熱失神と熱けいれんが挙げられます。熱失神は、血圧の低下によって目まいや立ちくらみが起こります。熱けいれんは、ナトリウムイオンの不足によって足・腕・腹部の筋肉にけいれん(こむら返り)が起こります。通常は現場で対応が可能です。

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図4

中等症2度(医療機関へ)(図5左):熱疲労がこれにあたります。激しい喉の渇きをおぼえるのと同時に、脱力感、頭痛、吐き気を訴え、気を失うこともあります。医療機関での診察が必要です。
重症3度(入院加療)(図5右):熱射病がこれにあたります。これまでかいていた汗が止まり、手足の震えや身体が引きつり、重症の場合は手足が動かなくなり、意識障害(応答がおかしい、無反応)を起こします。入院加療(場合によっては集中治療)が必要です。

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図5

Q. 熱中症を防ぐためにはどうすればよいのでしょうか?

A. 熱中症の予防には、日頃の自己管理が肝心です。

日常生活での注意点

普段の生活では、部屋を閉め切らないことが重要です。出来るだけ室内に風を通すようにしてください。二階建ての住宅では、一階の窓だけではなく二階の窓も開けて階段に風が通るようにすることも大切です。

また、住居の南側に、ゴーヤやヘチマ、キュウリ、アサガオなどのツル系植物を植えて緑のカーテンを作ることがおすすめです。他にも、葦簀や簾などによって、建物の温度上昇を抑えることができます。夕方、植木に水をやることや打ち水をすることも、これと同じ効果があります。

家庭内では、Tシャツやポロシャツ、短パンツなど、できるだけ軽装で過ごすようにしてください。吸汗速乾性の素材でできた衣服は、着ていて気持ちのよいものです。また、外出するときには日傘や帽子を使うことも大切です。

最近では、保冷剤を用いた冷却グッズも販売されていますので、それらを効果的に使うことも大切です。

家の中では暑さをしのげない時は、気分転換を兼ねて図書館や地域センターなど公共施設に行って涼むのも一策です。

食事面においては、日頃から三度の食事をきちんと取り、体調管理することが大切です。前の晩の深酒、睡眠不足、朝食抜きなどは、容易に熱中症を引き起こす原因になります。

室内の温度管理

夏の暑い日には、必ず部屋の窓を全開にして風通しを良くして下さい。風が通らないときは、扇風機を使って部屋の中に籠った空気を室外に出すようにして下さい。また、普段から部屋の中に温度計を置いておき、風通しを良くしておいても部屋の温度が28℃を越えるようなら、クーラーのスイッチを入れ室温が28℃を越えないようにして下さい。

こまめな水分補給

小まめに水分を取るようにして下さい。水分を取るといっても、単に水だけを飲んでいてはトイレに通う回数が増えるだけです。水を飲む際は、同時にごく少量の塩を取る必要があります。どのぐらいの塩の量が適切かというと、1㍑の水に食塩1~2g(小さじ1/3)を入れたものが良いとされています。好みによりレモン汁を入れても結構です。これを冷やして1時間毎にコップ半分ぐらいを飲むようにして下さい。特に、農作業や運動する20~30分前にコップ1杯を飲むようにして下さい。腸から身体の中に水分が吸収されるのにこのぐらいの時間がかかるからです。麦茶と一緒に梅干・お漬物・塩昆布などを口にするのも大いに役立ちます。ただし、高血圧の方は塩分の取りすぎに注意が必要です。

暑さに強くなるトレーニング

ヒトには、暑さや寒さに慣れる適応能力があります。その能力を引き出すには運動が効果的です。ここでは、信州大学の能勢博教授が開発された「インターバル速歩」(2009年)を紹介します。このトレーニングは、3分間の「さっさか歩き」(出来るだけ早く)の後に、3分間の「ゆっくり歩き」をセットで1日5回以上、週に3~4回繰り返すものです。運動後にコップ1杯の牛乳を飲むと、牛乳に含まれる糖とタンパク質の効果によって暑さに強い身体を作り出すことができます。牛乳が苦手な方は、ドリンクヨーグルトでも結構です。いずれにせよ、本格的な暑さが訪れる前の5月の連休ごろから始めるのが理想です。7・8月から始めても効果は変わりませんが、真夏のトレーニングの場合、午前7時以前あるいは午後7時以降の比較的涼しい時間帯に行うようにしてください。

Q. 熱中症に罹ってしまったらどうしたらよいのでしょうか?

A. まずは、風通しのよい日陰やクーラーの効いた部屋など涼しい場所に避難してください。氷嚢や冷たいペットボトルを首筋、腋の下、鼠頸部(太ももの付け根)に当てて身体を冷ますようにしてください。身体全体をタオルなどでうっすらと水で濡らし、団扇で煽ぐのも効果的です。

本人に意識があり、飲み物が飲めるようでしたら、冷たいスポーツドリンクまたは0.2%程度の食塩水(1㍑の水に小さじ1/3の塩を溶かしたもの)を飲ませてください。中等症2度の症状が表れている場合は、水分補給は静脈からの輸液が原則ですので、直ぐに救急車(119番)を呼ぶようにしてください。救急車を呼ぶかどうか迷った時は、救急相談センター(#7119番)へ電話をして、その指示に従ってください。その際、何時ごろから何をしていたのか、何時ごろにどのような症状が出だしたのかを詳しく伝えられるようにしておいてください。その後の処置に大いに役立ちます。

熱中症は、自己管理で予防できる疾患です。日頃から自身の生活環境や生活習慣に目を配り、暑い夏を健康に過ごしていただきたいと思います。