コロナ禍における「通いの場」の再開に向けて

社会参加と地域保健研究チーム 藤原 佳典

身近にある「通いの場」とは

 平成12 年に介護保険制度が創設されて以来、要介護状態になることや重度化することを先送りすることを目的として、国は、全国の自治体とともに、介護予防やリハビリテーションの取組を進めてきました。平成17 年の介護保険法改正以降、ハイリスクの方に声をかけて、様々な教室やプログラムを提供してきましたが、思うようには参加者が増えませんでした。そこで、平成26 年の介護保険法改正において、ハイリスクの方に限らず、広く地域の高齢者が参加しやすいような予防プログラムにも力点が置かれるようになりました。具体的には、限られた会場にトレーニングマシンを設置するというのではなく、日常生活の中で立ち寄りやすい範囲(概ね中学校圏域)内に、健康体操や茶話会等の介護予防活動ができる拠点(= 通いの場)をつくる方向に舵が切られました。その際、役所や専門家が主導するのではなく、住民リーダーやサポーターが地域の特徴を生かして主体的に「通いの場」を運営できるよう配慮されました。通いの場注1)の数は、全国的に徐々に増加傾向にあり、平成30 年度には、106,766 か所、65 歳以上人口に占める参加率は5.7%となりました。その取組内容としては、体操が約半数(52.8%)を占め、次いで茶話会(19.0%)の順に多くなっています。一方で、東京をはじめとする大都市部の高齢者は、多様な背景・価値観をもっているため、従来の体操と茶話会中心のプログラムでは、通いの場を積極的に活用するとは限りません。そこで、国は令和元年度「一般介護予防事業等の推進方策に関する検討会」において、体操や茶話会に限らず、様々な趣味・学習・ボランティア活動やちょっとした修理やお助けをする有償活動や、子ども・子育て世代も集える多世代交流プログラムも含めて、多種多様な場や機会を「通いの場」と位置付けて拡げていくことになりました。
 ふと見渡してみると、商店街の空き店舗や民家の空き室を活用した「〇〇の家」や、公民館・自治会館の割り当て時間に「△△カフェ・サロン」といった看板を見かけることがあるでしょう。
 最近は、近隣の知人や友人と家を訪問し合うことに気兼ねする人も多いので、交流の中間地点としても「通いの場」は重要です(図1)。

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図1

巣籠もり生活と生活機能低下

 ところが、2020年の3 月以降、新型コロナウイルス感染症の蔓延により、地域活動の拠点である「通いの場」にも大きな影響が出ています。実際、緊急事態宣言の発令後、全国の「通いの場」は休止を余儀なくされています。
 一方で、自粛生活が2 か月を超えた頃から、「通いの場」に通っていた高齢者については、巣籠もり生活により、生活機能が低下するのではと、マスコミは警鐘を鳴らしました。生活機能とは、日常生活をいきいきと自立して過ごすための能力のことで、高齢期の健康度の総合的な指標と言えます。
 ここで、生活機能の評価尺度(= ものさし)として、老研式活動能力指標注2)を用いて、巣籠もり生活が生活機能低下に及ぼすリスクについて考えてみました。「通いの場」に期待される、外出と同居家族以外との交流の機会について、私たちの先行研究では、男性は交流が週1 回未満、女性は外出頻度が1 日1 回未満だと4 年後の生活機能の低下リスクが2 倍程度になることが分かりました注3)。巣籠もり生活のイメージからすると、もう少し、短期間での影響が気になります。そこで、別の研究で、それぞれの年齢の人の1 年間の変化を見てみました。65 歳以上の人の生活機能の変化は、大きく4 つのパターンに分類できます(図2)。65 歳時点で既に、要介護状態に近い人(= フレイルな人、D タイプ)や、65 歳時点では、生活機能が自立していても、その後の低下スピードが速い人(C タイプ)は、2.5~5 年で1 点低下することが示されています。こうした人は、生活習慣病が増悪して、生活機能が低下する場合が多いので、自粛期間中も服薬、運動、食生活などの生活習慣をきっちり維持することが第一です。在宅でできる体操を習慣化することも重要です注4)。一方、その他の大半の高齢者の場合は、80 歳以降に3 年で1 点程低下することになります(B タイプ)。確かに、これらの高齢者の中には、日頃、活発に運動や社会活動に励んでいる人が少なくないでしょう。
 それゆえ、生活機能の低下スピードが2 ~ 3 年に1点程度に抑えられているのかもしれません。とは言え、巣籠もり生活下でも、大半の高齢者は、日常の家事・用事を粛々とこなしています。まとまった運動でなく、10 分未満の小刻みな身体活動でも、毎日3 時間程度続けると要介護状態になるリスクを30% 以上抑制できるという研究が、最近、報告されました注5)。要するに、自立高齢者においては、仮に、1~2年ほど巣籠もり生活が続いたとしても、生活機能の低下は必ずしも急激に進むものではないと言えます。
 一方で、社会参加活動が健康に好影響を及ぼすとの研究は多々ありますが、個人で活動するよりも、「通いの場」のようにグループ・団体活動に所属して活動する方が生活機能の維持に役立つとの研究もあります注6)。
 しかし、私たちが、都内のある地域で実施した調査によると、高齢者の40%はなんらかの自主グループ・団体活動に参加していましたが、参加していない人が2 年後に新規に参加した率は16% に留まりました注7)。つまり、通いの場を中断することはやむを得ないとしても、廃止・散会してしまうと、改めて、グループ・団体に参加することは、容易ではないと言えるでしょう。その結果、長い目で見ると生活機能の低下をもたらしやすくなります。
 やはり、新型コロナウイルス感染症の拡大下でも、感染予防をしっかり行い「通いの場」を再開したいものです。

図2

「通いの場」の再開に向けて

 以下は、当研究チームが東京都介護予防・フレイル予防推進支援センターとともに公開した「通いの場×新型コロナウイルス対策ガイド(第2版)」と「通いの場の活動再開の留意点」の中から、再開前に、感染症対策とあわせて考えたい8つのポイントを示しました。国の提唱する「新しい生活様式」や、米国疾病予防管理センター(CDC)のガイドラインを参照しつつ、通いの場の支援者や主催者との情報交換をもとに作成しました。

「再開前に、感染症対策とあわせて考えたい8つのポイント」注8)
①通いの場の目的を確認する(見直す)
②通いの場の開催方法を確認する(見直す)
③スタッフ同士のコミュニケーションを強化する
④通いの場に来てた人達の足を遠ざけない
⑤新しい参加者や協力者を得るチャンスに変える
⑥他の通いの場と連携するチャンスに変える
⑦地域の理解を得ながら再開する
⑧自治体等の専門機関・専門職と連携する

 今後、長期的に新型コロナウイルスと付き合いながら生活をしていく「with コロナ」対策の必要性が指摘されています。更には、今後、新種の感染症や自然災害が重積する可能性もあります。これからの通いの場の運営は、社会参加活動と健康危機管理をセットで考える必要があります。上記8 つのポイントに示すように、自粛期間は、感染症予防に加えて、通いの場自体の目的や運営体制について振り返る充電期間でもあります。また、「通いの場」はともすれば、三密の場として近隣や関係者から不安視される可能性があります。そのような時だからこそ、町会・自治会等地域団体の理解を得ることや、「通いの場」を支援する自治体や地域包括支援センター、保健センター等の専門機関と歩調を合わすことが重要になります。
 長期に及ぶ自粛期間の中で、通いの場を取り巻く環境はもちろんのこと、参加者の身体・心理・社会的状況にも変化が生じていると考えられます。本ガイドは、まさにこれから通いの場を再開しようとされる主催者や支援者の皆様が、感染症対策や地域社会の情勢、個人の心身社会的な変化等をふまえた通いの場の運営と実践をしていくための考え方のヒントを示したものです。全世界にとって前代未聞の時代の中、本ガイドの全てが厳密な科学的根拠に基づく方策とは言えません。また、本ガイドの内容すべてを実際に実践するとなると再開のハードルが高くなるのも事実です。まずは、それぞれの通いの場の目的、対象、内容、運営方法などに応じて、必要箇所を実践していただければ幸いです。
 さあ、「三密」を避け、スマイル(明るく)、センス(工夫し)、シナジー(協働効果)の「3S」で通いの場を再開しましょう。そして、周囲の人たちは、コロナ禍の難局において、「通いの場」を再開しようとされる、住民リーダー・サポーターに感謝とリスペクトを忘れずにいたいものです。

通いの場×新型コロナウイルス対策ガイド            通いの場の活動再開の留意点
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※「通いの場×新型コロナウイルス対策ガイド(第2版)」に関するプレスリリースは以下からご覧いただくことができます。
https://www.tmghig.jp/research/release/2020/0529.html

引用文献

 注 1)介護予防・日常生活支援総合事業(地域支援事業)の実施状況に関する調査において、「介護予防に資する住民主体の通いの場」として、市町村が把握しているもののうち、次の条件に該当し、当該年度において活動実績があったものを集計
① 体操や趣味活動等を行い、介護予防に資すると市町村が判断する通いの場であること
②通いの場の運営主体は、住民であること
③ 通いの場の運営について、市町村が財政的支援を行っているものに限らないこと
④月1回以上の活動実績があること
 注 2)手段的日常生活動作能力(買い物、調理、公共交通機関による外出、金銭管理等)5 点、知的能動性(読書、健康情報への関心、書類記載等)4 点、社会的役割(他人を訪問、相談にのる、見舞い等)4 点の下位三尺度から構成される(計13点)
 注 3)Fujiwara Y, Nishi M, Fukaya T, et al. Synergisticor independent impacts of low frequency of goingoutside the home and social isolation on functionaldecline: A 4-year prospective study of urban Japanese older adults. Geriatr Gerontol Int. 2017 Mar;17(3):500-508.
 注 4)Taniguchi Y, Kitamura A, Nofuji Y, et al. Association of Trajectories of Higher-Level Functional Capacity with Mortality and Medical and Long-Term Care Costs Among Community-Dwelling Older Japanese.J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2019;74(2):211-218.
 注 5)Chen T, Honda T, Chen S, et al. Dose-Response Association Between Accelerometer-Assessed Physical Activity and Incidence of Functional Disability in Older Japanese Adults:A 6-Year
Prospective Study. J Gerontol A Biol Sci Med Sci.2020 Mar 5;glaa046. doi:10.1093/gerona/glaa046.
 注 6)Kanamori S, Kai Y, Kondo K, et al. Participation in sports organizations and the prevention of functional disability in older Japanese: the AGES Cohort Study.PLoS One. 2012;7(11):e51061. doi:10.1371/journal.pone.0051061. Epub 2012 Nov 30.
 注 7)Nemoto Y, Nonaka K, Hasebe M, et al. Factors that promote new or continuous participation in social group activity among Japanese communitydwelling older adults: A 2-year longitudinal study.Geriatr Gerontol Int.2018 Aug;18(8):1259-1266.
 注 8)「通いの場×新型コロナウイルス対策ガイド(第2版)」と「活動再開の留意点(第2版)」https://www2.tmig.or.jp/spch/