2025.9.22
フレイル(Frailty)とは、「健康な状態と要介護状態の中間に位置し、身体機能や認知機能の低下がみられる状態」を指します。国や自治体は、健康寿命の延伸に向けフレイル予防に関する施策を打ち立てています。
フレイル予防に関する施策を実施・評価するためには、そもそもどのくらいの人がフレイルに該当しているかを把握することが重要です。これまで、いくつかの研究で日本人の高齢者のフレイル該当者割合(以下、フレイル割合)が調べられています。しかし、その割合は研究によってかなり幅があります。例えば、後述のFriedらの指標を用いた研究を調べてみると、1.5%から17.9%まで15ポイント以上の開きがあります。これは、調査地域、調査対象者の選定方法などの違いの影響を受けているためと考えられます。また、いずれの研究も特定地域での調査であり、「日本人高齢者全体」のフレイル割合を把握することはできていませんでした。
そこで私たちの研究チームでは、代表サンプルによる「全国高齢者パネル調査」のデータを用い、地域在住の日本人高齢者全体のフレイル割合を初めて明らかにしました1)。
データは、「全国高齢者パネル調査」の2012年調査(第8回調査)のものを用いました。「全国高齢者パネル調査」は、1987年から継続的に実施されている調査で、東京都健康長寿医療センター研究所、東京大学、ミシガン大学が合同で実施しているものです。層化二段無作為抽出法という手法を用い、全国から無作為に選定されるように対象者を選んでいます。
対象者は、2012年調査の参加者のうち、自宅への訪問調査に協力していただいた65歳以上の方2,206名でした。
フレイルの把握は、世界で最も使用されているFriedらの指標を用いました2)。指標には、「体重の減少」「疲れやすさ」「日常生活での活動量の減少」「握力の低下」「歩行速度の減弱」の5つが用いられます(図1)。
図1.Friedらのフレイル指標に含まれる5項目
(出典:健康長寿新ガイドラインシリーズ『3本の矢でフレイルを防ごう!』監修/東京都健康長寿医療センター研究所 健康長寿新ガイドライン策定委員会 発行/社会保険出版社)
本研究では、「体重の減少」はBody Mass Index(BMI)で、「疲れやすさ」はアンケート項目にて、「日常生活での活動量の減少」は運動やウォーキングの習慣がない、あるいはほとんどないことで、「握力の低下」は握力測定で、「歩行速度の減弱」は通常歩行速度測定で、それぞれ把握しました。
指標の5項目のうち、3項目以上該当した場合に「フレイル」、1-2項目の場合に「プレフレイル」(フレイルの前駆状態)、0項目の場合に「健常」と判断しました。
なお、フレイル割合を算出する際、回答者の性別、年齢の偏りを調整するために、2010年の国勢調査の人口構成データを用いて重み付けを行っています。
全体では、8.7%(95%信頼区間:7.5%-9.9%)の人がフレイルに該当していました。プレフレイルは40.8%(95%信頼区間:38.7%-42.9%)、健常は50.5%(95%信頼区間:48.4%-52.6%)でした。
性別、年齢別でのフレイル割合を図2に示します。性別による違いがありませんでしたが、年齢では、高齢なほどフレイル割合が高い傾向がありました。
図2.性別、年齢によるフレイルの分布
社会経済的状態による違いはどうでしょうか。教育年数が短いほど、夫婦収入が少ないほど、フレイル割合が高い傾向がありました(図3)。
図3.社会経済的状態によるフレイルの分布
地域ブロック別では、概ね、西日本で高く、東日本で低い「西高東低」の傾向がみられました(図4)。
図4.地域ブロック別でのフレイルの分布
最後に、フレイルになることは、将来的にどのような健康アウトカムにどのくらい影響を及ぼすのでしょうか。調査から5年後の総死亡、入院・入所、基本的生活機能障害(歩行、食事、入浴、排泄などの日常生活に必要な基本的な身体動作における障害)の発生をアウトカムにした解析では、健常群に比べて、フレイル群はいずれの予後も悪いという結果でした(図5)。これまでもフレイルと予後の悪さの関連を報告した研究はありましたが、全国データを用いても、やはりフレイルは将来の死亡や生活機能障害の発生につながりやすいことがあらためて示されました。
図5.フレイルと予後との関連
本研究は、本邦で初めて地域在住日本人高齢者のフレイル割合を明らかにした点で大きな意義があります。フレイル予防に関する施策の評価、あるいはフレイルに関する学術研究のマイルストーン(基準値・目標値)になる知見です。
アメリカの同様の調査手法を用いた研究では、全米高齢者のフレイル割合は15.3%と報告しています3)。フレイル状態が死亡や障害などの予後の悪さと関連していたことを考えると、日本人の平均寿命や健康寿命の長さは、フレイル割合が少ないことによって説明可能と考えられます。
また、性別、年齢、社会経済的状態といった個人特性に加え、地域ブロックによるフレイル割合の違いを「見える化」したことで、健康格差の是正の必要性をあらためて提示することができたと考えています。
1. Murayama H, Kobayashi E, Okamoto S, et al. National prevalence of frailty in the older Japanese population: Findings from a nationally representative survey. Archives of Gerontology and Geriatrics, 2020, 91, 104220.
2. Fried LP, Tangen CM, Walston J, et al. Frailty in older adults: Evidence for a phenotype. Journals of Gerontology, Series A: Biological Sciences & Medical Sciences, 2001, 56, M146-156.
3. Bandeen-Roche K, Seplaki CL, Huang J, et al. Frailty in older adults: A nationally representative profile in the United States. Journals of Gerontology, Series A: Biological Sciences & Medical Sciences, 2015, 70, 1427-1434.