2026.1.7
フレイルとは、加齢に伴い身体的・精神的機能が徐々に低下し、要介護状態に至る前の脆弱な段階を指します(図1)。近年、このフレイルの予防・改善が健康長寿の鍵として注目されており、わが国の高齢社会における重要な課題となっています。
私たちの研究チームは、これまでに「運動」「栄養」「社会参加」という三つの要素がフレイルの予防・改善に有効であることを示し、これらを組み合わせた複合的な予防プログラムの開発とその効果検証を進めてきました(文献1)。
図1.フレイルの概念図
こうした予防プログラムを社会全体に広く普及させるには、専門職による支援体制だけでは限界があります。専門職の人材確保や資金面、そして事業の継続性に課題があるためです。
そこで私たちは、「高齢者自身がフレイル予防の担い手となる」新たな仕組みの構築に取り組みました。具体的には、「シルバー人材センターの会員が所定の研修を受け、フレイル予防教室を仕事として運営し、対価を得る」事業モデルを考案しました。
このモデルは、非専門職である高齢者が、地域に根ざした支援者として教室を担うことで、持続可能な予防活動の展開を目指しています。
こうした仕組みの実現可能性を検証する先行的な取り組みとして、兵庫県養父市において、行政と連携しながら「研修を受けたシルバー人材センターの会員が、仕事としてフレイル予防教室を運営する」モデルを実装しました。その結果、約7割の行政区にシルバー人材センターが担うフレイル予防教室が広がり、参加者のフレイルや要介護リスクが半減するなど、モデルの有用性が実証されました(文献2)。
一方で、この事業は行政主導で行われ、委託費や運営サポートがあったため、他地域で持続可能な形で自立的に事業化できるか、すなわち本モデルの普及可能性についてはさらなる検証が必要でした。
そこで今回、埼玉県シルバー人材センター連合(公益財団法人いきいき埼玉)と協働し、より現実的な条件下でのモデルの社会実装と普及可能性の検証を行いました(図2)。
図2.事業モデルのイメージ図
いきいき埼玉が実施主体となり、埼玉県内の全58センターを対象に、以下の4つの支援を2018年から5年間にわたり実施しました。
• 運動・栄養・社会面に働きかける教室プログラムと教材の提供
• フレイル予防サポーター養成研修(全3回)
• センター間の情報交換会の開催
• 各センターの事業実施に関する相談支援
その結果、2022年時点で、全体の59%のセンターが事業に取り組み、40%のセンターでは教室を担当した会員に対価が支払われる形で運営されました。また、実施したセンターの75%が2年以上、事業を継続しています(文献3)。
これらの実績は、非専門職の高齢者が「仕事」としてフレイル予防を担うというモデルが、現実的かつ持続可能な形で地域に普及可能であることを示唆しています。
本研究の最大の意義は、高齢者自身が地域の健康支援の担い手として活躍する仕組みを既存の地域資源を活用して社会実装した点にあります。
非専門職の高齢者が「ボランティア」ではなく「仕事」としてフレイル予防教室の運営を担うことで、特に過疎地や高齢化が著しい地域など、従来はボランティアが少なく、健康支援事業の展開が困難であった地域でも、戦略的な教室開設が可能となります。
また、シルバー人材センターにとっても、「健康支援」という新たな職域の創出により、会員の仕事の選択肢が拡大し、就労機会の増加や満足度の向上が期待されます。
さらに、教室の担い手と参加者の双方に健康効果が期待できる点も大きな特長の一つです。教室の運営に関わることで、担い手自身の心身の健康維持にも寄与し、参加者と共に健康寿命の延伸を目指す好循環が生まれています。
本研究で得られた知見は、全国の自治体やシルバー人材センターに対し、「健康支援を高齢者の仕事とする」という新たな選択肢を提示するものです。今後は、より多様な地域や条件での適応性を検証しつつ、全国への普及・拡大を目指して取り組みを進めたいと考えています。
1) Seino S, Nishi M, Murayama H, et al. Effects of a multifactorial intervention comprising resistance exercise, nutritional and psychosocial programs on frailty and functional health in community-dwelling older adults: A randomized, controlled, cross-over trial. Geriatr Gerontol Int 2017;17:2034-2045.
2) 野藤 悠, 清野 諭, 村山 洋史, 他.兵庫県養父市におけるシルバー人材センターを機軸としたフレイル予防施策のプロセス評価およびアウトカム評価.日本公衆衛生雑誌 2019;60:560-573.
3) 野藤悠, 新開省二, 大須賀洋祐, 他.高齢者が仕事として担うフレイル予防教室運営」の普及可能性と課題:埼玉県シルバー人材センター連合本部の取組.日本公衆衛生雑誌 2025;72:42-51.