2026.3.3
高齢者がおこす認知障害には多くの原因があり、アルツハイマー型認知症はその大きな主要因です。1906年に初めてアルツハイマー博士によって報告されたこの病気は、脳内にアミロイドベータペプチドおよびタウタンパク質が蓄積することを特徴としますが、未だにその認知障害発症メカニズムは明らかにされていない難病です。疫学研究によると65歳以上の日本人の14.8%が認知症を患い、その2/3がアルツハイマー型とされ(2022年厚生労働省調査より)、その原因解明と対処方法の確立が望まれています。そしてそのためには、ヒトを対象とした認知症発症過程を明示し、その時々で起こっている変化を解明することが必要です。
私たちはヒトを対象とした認知症発症過程の可視化と解析を行うためのシステム開発を複数の企業と共同で行なっています。私たちは次に示す大きく2つの方向でシステム開発をおこなっています。
1つは認知症血液バイオマーカー検出結果の解析ソフトウェアの開発です。このソフトウェアは通常生活を営むお年寄りのアルツハイマー型認知症発症リスクを蓄積した血液データより科学的背景に基づいて算出します。そして、認知症をターゲットとした介護・医療的介入や政治的介入など各種介入に適切なフィードバックを与えることで、認知症発症過程そのものを社会的に制御するシステムを実現しようとしています(図参照)。まさに、私が現在所属する認知症未来社会創造センターの狙いそのものです。
もう1つは、今回紹介させていただく血液バイオマーカー検出用エライザシステムの開発です。これまでにも血液バイオマーカー検出用エライザシステムは幾つか制作され、医療目的での導入が開始されています。しかしながら、これらの検査単価は高価であり、上で考えた様な社会レベルでのアセスメントには不向きです。このことから、我々はターゲットとするバイオマーカーを絞り込み、さらに検出解析工程の自動化・ネットワーク化を行い、さらに必要な抗体などの消耗品の作成も自身で行うための企業ネットワークを構築し、低い検査単価の有効なバイオマーカー検出解析システム実現しようと努力しています。
この様な大きな流れの中で株式会社「SEGNOS」(以下セグノス)との共同研究を開始しました。セグノスは微小磁性粒子「ThermaMax」(以下TM)を開発し、エライザの高感度化・高速度化に貢献している企業です。共同研究では、まず、TMをつかった超高感度分子カウント技術の開発を行いました。
TMは直径0.0001mmの微小粒子です。この様に十分に小さな粒子であれば、例え粒子が黒い鉄粒でできていようが、十分に長い波長を持つ光を使うことで、その後ろに光を回り込ませることが可能となります。さらに、TMは容易に磁石によって集積し(これ自身が驚くべきことです)安定なペレットを作ることから、ペレット(固形沈殿物)中に特定の物質に対するサンドウィッチエライザ分子集合体(2つの抗体でターゲット分子をサンドウィッチした状態)を凝集し、効率よく分子カウントを行うことを可能としました。
分子カウントとはレーザーコンフォーカル技術を用い、水中の蛍光分子の数を数えることで分子濃度を求める方法のことです。この手法では、分子濃度が低すぎると分子探索のためのスキャン時間が長くなり事実上の検出下方限界を作ってしまっていましたが、我々の手法はこの短所を克服し、これまで検出できなかった低濃度バイオマーカーの迅速な検出を可能としました。
現在、セグノスはより安価な分子検出システムの開発をおこなっています。すなわち、セグノスはTMをもちいたレーザーコンフォーカル技術に依存しない高感度エライザ技術(ThermaLISA®(サーマライザ)法 )の開発をおこなっています。これらの努力によって、近い将来、血液一滴によるアルツハイマー型認知症発症リスク判定が可能になり、認知症発症過程そのものを社会的に制御するという目標に近づいていると思っています。