前立腺癌治療の大きな柱の一つである放射線治療。従来の当センターにおける放射線治療は、特定の方向から均質な放射線を当てるものでしたが、2021年よりIMRTが始まりました。
このIMRT、日本語では「強度変調放射線治療」と呼びます。事前に前立腺と腫瘍位置を画像的にコンピューターに取り込み、コンピューター制御で多方面から強弱のついた放射線を腫瘍へ最大限に当てるものです。従来の方式と異なり、前立腺と癌にはより強力に、周辺の膀胱や直腸には極力当たらないように放射線を照射することができます。これにより、副作用が少なく、より強力な放射線治療を行うことができます。
IMRTを行うにあたり、一般的にはホルモン治療を組み合わせ、前立腺そのものを十分に小さくします。標的をなるべく絞るのです。その上で、多方面から何回も重ねて放射線を当てていきます。そのため、数週間、数十日かけて照射を行うわけですが、毎日毎日、放射線を計画通りに、位置的に正確に当てなければなりません。しかし、その日の姿勢やむくみ、腸管や膀胱の膨らみなどによって、標的である前立腺の位置は体内で微妙に変わってしまいます。
そこで、前立腺内に、金でできた指標(マーカー)を留置します。その位置を毎回の照射の際に確認することで、より正確に計画通りに放射線を当てることを可能にします。このマーカーは、人体に安全な24金でできています。とても柔らかく、人体に刺激を与えることも少ないと言われています。
留置にあたっては、手術室にて麻酔をかけた上で、超音波検査機で見ながらお股から前立腺に針を刺して留置します。
どんなに計画どおりに照射しても、どうしても直腸にあたる部分が生じます。これは前立腺と直腸が極めて近接しているためで、仕方がないことと言えます。しかし、この前立腺と直腸との距離を離すことができたら...。
そこで、前立腺と直腸の間に食品添加物や化粧品にも含まれるポリエチレングリコールの液体を注入します。この液体は即座にゼリー状に固まり、前立腺と直腸の間に物理的に3か月程居座り、前立腺と直腸の距離を保ちます。その間に放射線治療を行うことで、直腸より離れた前立腺に安全に照射を行うことができるのです。なお、その後半年ほどでゼリーは吸収され消失していきます。
このスペーサーも、手術室にて麻酔をかけた上で、超音波検査機で見ながらお股から針を刺して注入します。
前立腺癌治療の選択肢は、手術や放射線など多岐に渡ります。完治のためには手術も大きな治療の柱ですが、ご年齢や合併症などにより、麻酔を含め、お体にメスを入れることができないような方もいらっしゃいます。そのような方で完治を目指すべき場合、放射線治療も大きな選択肢の一つとなります。
その放射線治療にもいくつかの選択肢がございますが、当センターでは今後、既に始まっている放射線治療科でのIMRTに、泌尿器科によるゴールドマーカー留置、前立腺スペーサー注入を組み合わせて、より安全な放射線治療に取り組んで参ります。