腹部大動脈瘤のステントグラフト内挿術

腹部大動脈瘤は動脈硬化などにより、大動脈などの壁が弱くなり血圧に押されて拡張する病気です。腹部大動脈瘤は破裂すると大量に腹腔内や後腹膜腔に出血し、非常に死亡率が高い病気です(心停止した場合どんなに手術しても、もちろん助かりません)。腹部大動脈瘤は臍の下にありますが通常症状はなく、CT検査や超音波検査で偶然発見されます。

腹部大動脈瘤5.5cmのCT検査(腹が膨隆して外からも分かる瘤)

腹部大動脈瘤5.5cmのCT検査(腹が膨隆して外からも分かる瘤)

腹部大動脈瘤の開腹手術
腹部大動脈瘤の開腹手術

従来は開腹して動脈瘤を切開し、人工血管に取り換える手術のみでしたが、当院血管外科では開腹しないで腹部大動脈瘤の治療を行う低侵襲のステントグラフト内挿術(EVAR)を導入しています。高齢者の多い当施設ではEVARも難しい患者様も多いですが、安全に施行しています。たとえば、難度の高い傍腎動脈腹部大動脈瘤に対しても腎動脈再建を合わせて行うステントグラフト内挿(EVAR)を実施し開腹することなく治療しています。

治療

腹部大動脈瘤に対するステントグラフトによる治療は、1990年にアルゼンチンで初めて行われました。現在日本では腹部大動脈瘤の約70%以上はステントグラフトにより治療されています。日本では、2006年7月に腹部大動脈瘤のステントグラフト製品の認可が下り、2007年4月から使用が可能となりました。ステントグラフトは、人工血管にステントといわれるバネ状の金属を取り付けたもので、これを細かいカテーテルの中に圧縮して格納します。カテーテルを、患者さんの脚の付け根を4cm切開して(切開しないこともある)動脈内に挿入し、動脈瘤のある部分まで運んだところで格納してあるステントグラフトを留置します。その後は人工血管の中だけを血液が流れるようになり、腹部大動脈瘤の瘤壁には血圧がかからなくなるため破裂が予防されます。この方法だと、腹部手術後で再開腹手術が難しい患者さんなどはこの治療を積極的に選択しています。施行後、翌日には歩行ができ食事もとれるため5日目には退院することができます。腹部大動脈瘤の患者さんは高齢であるだけでなく、他の病気(心臓や脳、腎臓や肺など)の多い方でも当院で治療することができます。当科では、日本で使用可能な5種類すべてのステントグラフトを全て使用可能であり、術前にCT検査画像を綿密に測定し、患者様それぞれの動脈の形態にあったステントグラフトを選択します。瘤の形が通常のステントグラフトに合わない症例もありますが、多くの場合問題となる腎動脈をカテーテルで再建することによりできるだけ開腹をしない低侵襲治療を行っています。また、骨盤への血管を治療上の必要性から塞栓(血流を塞ぐ)こともありますが、できるだけ骨盤虚血を防ぐためのデバイス(Iiac Branch Endoporesis®;IBE®)も積極的に使用し低侵襲治療を実践しています。


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ステントグラフト内挿術後のCT検査(スノーケル法にて左腎動脈が再建されている)

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ステントグラフト(腹部大動脈)の例

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内腸骨動脈再建用ステントグラフト(Iliac Branch Endoporesis®;IBE®)

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内腸骨動脈再建用ステントグラフト内挿術後3D‐CT像

まとめ

次のような症状のある方に血管外科の受診をお勧めします。(予約室直通電話03-3964-4890)
  ・動脈瘤があると言われた方
  ・お腹がどくどく拍動している方
  ・ご家族に大動脈瘤の破裂を患われた方がいらっしゃる方