アレルギー性皮膚炎と皮膚疾患

アレルギーとは

細菌やウイルスなど人体にとって危険な異物が体に侵入したときにこれを撃退する仕組みを免疫反応といいます。この免疫反応が通常は人体に無害な物質やごく微量の異物に対して過剰に反応してしまい、逆に自分の身体を傷害する病態をアレルギーといいます。また、本来は異物ではない自分自身の体の構成細胞や成分に対してアレルギー反応(自己免疫疾患)が生じることもあります。アレルギー反応はこれを引き起こす物質や異物(抗原やアレルゲンと称されます)と、対応する人体の免疫防御成分や細胞(IgE抗体やTリンパ球など)の反応様式によって大きく4つの型に分類され、発症する代表的な疾患も明らかとなっています(表1)。

表1:免疫アレルギー反応(生体に不都合な過剰反応)の様式

  • Ⅰ型(即時型): 15 ~ 30分で発現。肥満細胞とIgEが関係。重症型はアナフィラキシーショックとなる。代表疾患は 蕁麻疹、花粉症、アトピー性皮膚炎、蕎麦・ナッツ・蜂毒アレルギー、喘息。
  • Ⅱ型(細胞障害型): 細胞抗原に対するIgGやIgM抗体反応による。代表疾患は天疱瘡・類天疱瘡、溶血性貧血、重症筋無力症。
  • Ⅲ型(免疫複合体型): IgG、IgMあるいはIgA抗体と抗原が結合した免疫複合体が組織に沈着し、補体を活性化し臓器障害が発生する。代表疾患は糸球体腎炎、SLE、悪性関節リウマチ、血管炎。
  • Ⅳ型(遅延型): 48時間が反応のピーク。感作Tリンパ球が主役でツベリクリン反応もこれに基づく。
    代表疾患は接触皮膚炎、薬疹、アトピー性皮膚炎。代表疾患は接触皮膚炎、薬疹、アトピー性皮膚炎。

ちなみに、一般的によく知られているアトピー性のアレルギーとは、IgE抗体が関係するⅠ型アレルギー反応やこれが発生しやすい体質を意味します。

症状について

皮膚炎という学術用語には皮膚に炎症(腫脹、発赤、熱感、疼痛・痒みなど)が生じている病態を広く意味する場合(広義の皮膚炎)と、皮膚の炎症反応の1つの様式である湿疹反応(臨床的に痒みを伴った紅斑、丘疹/結節、湿潤、苔癬化などが種々の程度で混在する病態)に限定してこれを意味する場合(狭義の皮膚炎=湿疹皮膚炎、例:アトピー性皮膚炎)とがあります。通常、アレルギー性皮膚炎はアレルギー性炎症によって発症する狭義の湿疹皮膚炎を意味し、その代表的疾患として接触皮膚炎(いわゆる"かぶれ"、Ⅳ型アレルギーが関与;図1)やアトピー性皮膚炎(Ⅰ型とⅣ型アレルギーが関与する;図2a,b)が知られています。

  • 図1:接触皮膚炎 湿布薬貼付 部に湿疹皮膚炎が認められる。
    図1:接触皮膚炎 湿布薬貼付 部に湿疹皮膚炎が認められる。
  • 図2:a)アトピー性皮膚炎の 臨床像
    図2:a)アトピー性皮膚炎の 臨床像
  • b)皮膚組織に浸潤するIgE抗体 陽性細胞(褐色に染色されている)
    b)皮膚組織に浸潤するIgE抗体 陽性細胞(褐色に染色されている)

一方、広義の皮膚炎の臨床症状を呈するアレルギー性炎症はアレルギー性皮膚疾患と総称され、蕁麻疹(皮膚の限局性浮腫である膨疹が多発する;図3)や薬疹(薬によるアレルギー性の発疹;図4)がその代表として知られています。

  • 図3 蕁麻疹の臨床像
    図3 蕁麻疹の臨床像
  • 図4 薬疹の臨床像
    図4 薬疹の臨床像

診断と治療

アレルギー性の皮膚炎や皮膚疾患の診断で特に大切なのは視診と問診です。皮膚は容易にその状態を観察出来る臓器なので、視診による皮膚症状の形態的特徴の観察と問診による原因の推定が重要となります。例えば腰や膝などに境界明瞭な長方形の湿疹皮膚炎があり、湿布薬を使用したことを患者さんから聞き出せば湿布薬成分による接触皮膚炎(図1)であることが容易に診断出来ます。また、家族や本人に喘息やアレルギー性鼻炎を患った経験があり、体の広い範囲に慢性の湿疹皮膚炎があればアトピー性皮膚炎(図2a,b)が強く疑われます(アトピー性皮膚炎は小児や成人だけでなく高齢者でも発症します。)
アレルギーの原因や悪化因子の特定には、貼付(パッチ)テスト、プリックテスト、特異的IgE抗体検査、リンパ球幼若化試験、皮膚生検といった各種検査(表2)も有用です。

表2:各種検査

  • 貼付(パッチ)テスト:抗原物質を正常皮膚に貼付して48時間後に同部が発赤するかを判定する。
  • プリックテスト:抗原溶液を針で傷つけた皮膚にたらして15 ~ 30分後に同部の腫れ・赤みの有無を判定する。
  • 特異的IgE抗体検査:アレルギー反応引き起こす生活環境アレルゲンに対する血液中のIgE抗体濃度を測定する。
  • リンパ球幼若化試験:アレルギー性薬疹などの原因被疑薬と血液中のリンパ球の反応を測定する。
  • 皮膚生検:病変の一部(米粒大程度)を局所麻酔後に切除して組織標本を作製し、皮膚病理組織反応を診断する。

アレルギー性皮膚炎・皮膚疾患の治療を行う上で最も大切なことは発症原因(抗原やアレルゲン)の特定とその除去や排除(例えばかぶれる湿布薬は使わない、薬疹を誘発する薬剤は内服・注射しないなど)に努めることです。
しかしながら、原因を確定出来ないこともまれではなく(前述の各種検査でも原因を特定出来ないことがあります)、また、原因がわかってもこれを日常生活から完全に取り除くことが困難な場合(例えばアトピー性皮膚炎の代表的アレルゲンであるチリダニ排除)も少なくありません。そのため、アレルギー性炎症を軽減させるための治療法(対症療法)が主体となる場合もあります。代表的な対症療法はステロイド外用薬の塗布と抗ヒスタミン・抗アレルギー薬の内服です。また、生活指導やスキンケア指導を行うことでも症状の改善が期待できます。さらに近年では生物学的製剤の皮下注射やヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬の内服がアトピー性皮膚炎や結節性痒疹あるいは蕁麻疹などの疾患に対して奏効することが明らかとなり、これら薬剤が保険適応となっているのでアレルギー性皮膚疾患の治療は新しい時代を迎えていると言えます。

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