人工関節センター

当センターでは人工関節手術の症例増加に伴い、より良い人工関節治療がご提供できるよう2016年4月1日より地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター整形外科に人工関節センターを設立いたしました。

関節の痛みのために楽しく生活できない、そのようなお悩みありませんか?
当センターでは人工膝関節全置換術・人工股関節全置換術・大腿骨人工骨頭置換術を得意としております。

当センターは高齢の方や合併症のある方が多くいらっしゃるため、特に術前評価、手術手技の選択を慎重に行い、また術後合併症の予防に関してできる限りの対策をとっています。心身ともに健康な方に対しては、"高齢であるという単純な理由で手術的治療を選択肢から除外する"ということは行っておりません。特に人工股関節全置換術につきましては、手術を行った方の平均年齢は全国平均より約10歳程度高い年齢となっており、豊富な経験を有しております。また麻酔科をはじめ院内各科も高齢の方の治療経験が豊富なスタッフが揃い、合併症の治療に関しても最高レベルの医療を提供しております。さらに人工関節センターの設立に当たり高齢の方だけでなく、より多くの方に高水準の医療をご提供できると考えております。 当然のことながら、生来の関節にて日常生活を送ることがベストです。手術治療だけでなく患者様個々に的確な保存的治療を指導し、手術をしなくて済む方法もご一緒に探していければと考えております。

※当センターでは外来患者様向けのリハビリテーションを行っておりません。
当センターは急性期総合病院であり、病気や外傷発生の直後あるいは手術直後の入院患者様に集中して理学療法士・作業療法士がリハビリに取り組んでいるため、外来患者様のリハビリに関してはご自宅近くの整形外科クリニックなどへの紹介状の作成を行っております。

人工関節

関節(体の四肢の動く部分)は骨が関節軟骨というやわらかい骨でコーティングされています。様々な原因で周辺の骨に微小な損傷がおこったり、軟骨のコーティングが削れてしまうと、関節の動きがわるくなったり、痛みが生じたりします。痛みのため、日常生活活動度に悪影響を及ぼす場合、まずは保存的治療(投薬治療、運動療法など)を行います。その痛みの程度と患者様の生活スタイルを十分考慮した上で、手術的治療を選択するかどうかを、患者様ご本人、ご家族、担当医で相談することになります。
多くの場合、体重の増加や筋力の低下で関節に負担がかかり痛みが出現し、さらに運動できずに体重が増え、痛みが増すという悪循環に陥ります。また、痛みを放置しておくとかばうような歩行をするようになり、腰や他の関節に悪影響を及ぼします。また、慢性疼痛といい、手術をしても痛みがあることが当たり前と脳が判断し、痛みの信号を出し続けてしまう。言い換えると、"取れにくい痛み"となってしまうこともあります。そのため手術的治療を行うか、保存的治療を行うかのタイミングは患者様のご希望と合わせて一緒に考えていく必要があります。
また、腰痛などが合併している方に関しては当センター併設の脊椎外科の医師との協力で複合的な痛みの治療を行っております。

人工膝関節全置換術(TKA)
変形性膝関節症・大腿骨特発性壊死症などで膝の関節軟骨がすり減ることで生じる痛みに対して人工膝関節全置換術(TKA)や症例により人工膝関節単顆置換術(UKA)を行っております。

人工膝関節設置のイメージ画像
人工膝関節設置のイメージ画像

人工膝関節の各部品
人工膝関節の各部品
1)大腿骨コンポーネント、2)脛骨ベースプレート、3)インサート(関節面の役割を果たすポリエチレン)

人工股関節全置換術(THA)
欧米人と比較して日本人では、特に女性で臼蓋形成不全(股関節の骨盤へのはまりが浅い状態)を基礎として変形性股関節症を発症ことが多いとされています。またリウマチなどの膠原病、大腿骨頭壊死症などが原因で股関節の痛みが生じることがあります。
当センターでは40-90代にかけて安全で確実な人工股関節全置換術を施行しております。

人工股関節設置のイメージ画像
人工股関節設置のイメージ画像

人工股関節の各部品
人工股関節の各部品
1)臼蓋コンポーネント、2)大腿骨ステム、3)インサート(関節面の役割を果たすポリエチレン)

  • 人工骨頭置換術
    怪我で起こった大腿骨頸部骨折に対して主に行われます。怪我で股関節に痛みがある時には低侵襲の手術をなるべく早期に施行いたします。
    また、この骨折は骨粗鬆症が原因にあるため入院中より骨粗鬆症の指導と退院後の治療を継続いたします。

当センターでの人工関節手術の特徴

当センターではできる限り低侵襲で痛みのない、回復の早い手術を目指しております。それにより術後の合併症も少なくなるためです。
患者様の術前の状態によっては両側同時の手術も可能です。

  • 人工膝関節全置換術
    膝のお皿の直上に10〜15cmの傷をつけ、人工関節置換を行います。術前や術中より大腿神経ブロック注射及び痛み止めカクテル注射(麻酔薬や炎症止めなどを混合した薬液)を併用することにより、多くの患者様が手術後の強い痛みを感じずに翌日には立位が可能、2日後には歩行可能となっております。
  • 人工股関節全置換術 人工骨頭置換術
    従来の股関節後方アプローチという股関節周囲を十分に観察・操作できる安全な方法に加え、症例により前方侵入(DAA:ダイレクトアンテリアアプローチ)という筋肉の損傷を最低限に抑えた低侵襲での手術を施行しております。これにより術後の疼痛も少なく、離床や歩行可能となる時期も早くなっております。術式は各患者様の状態に応じて検討し、決定いたします。

治療の流れ(主に、合併症を多く持つ高齢者の方のために)

初診察から手術、退院に至るまでの流れをご説明いたします。

初診察

整形外科一般外来でも受け付けておりますが、今まで他院で治療を受けていた患者様に関しては、今までの治療や現在の状況についての診療情報提供書(いわゆる紹介状)がありますと受診予約が早く取れ、また診療・診察の進行もスムーズです。股関節・膝関節専門外来宛の紹介状がある方では、関節専門外来の受診予約をお取りすることができます。

外来でフォロー

担当医師とのコミュニケーションをとります。

事前リハビリ+全身状態のリスク評価(2週間程度のリハビリ入院)

手術を安全に受けていただくために、手術前に持病の評価や虫歯などのコントロールをしていただきます。事前リハビリ入院中に、心エコー、呼吸機能検査、血糖値など様々な一般検査を行い、必要があれば、高齢者の対応に熟練した内科専門医あるいは麻酔科専門医にコンサルトし、手術の可否、および術中術後の注意点など専門的な評価をいただきます(これらの検査・コンサルトは外来レベルで行う場合もあります)。

このリハビリ評価入院のみのご希望も受け付けております。手術的治療に迷っていらっしゃる方のために、歩行訓練+筋力トレーニングを行い、その後、外来フォローに戻っていただくことができます。

治療方針が決まりましたら、病状と推奨する治療法につき詳しくご説明致します。今後の生活全般にかかわることですので、必ずご家族を交えて面談させていただきます。 手術の方針となった場合には、日程を検討の上、次の段階に進みます。

自己血貯血

人工膝関節では1回400ml、人工股関節では400mlの自己血採血を2回行うことを標準としています(貧血など患者様の状態によっては行うことができない場合があります)。高齢の方では、血圧の変動などに注意が必要なため、基本的に採血日には入院していただいています。

入院-手術

手術は1回目の自己血採血より2-4週後ごろになります。
入院期間は約3週間を標準としています。当センターでは術後十分なリハビリ期間を設けております。

術後

退院後は、股関節外来、膝関節外来での定期検診がございます。
退院後1ヶ月検診、術後3ヶ月検診、術後6ヶ月検診、術後1年検診と続きます。
自覚症状がなくとも、人工関節周辺にゆるみが生じたりするなどの異常が出る場合がありますので、術後1年検診で問題がなく、その後どんなに調子が良くても、術後2年検診、術後3年検診...と、年1回は必ず当センターを受診していただきます。
また個人差はありますが、脱臼を繰り返されたり、レントゲンで異常が見られたときの再置換手術も当科で責任を持ってフォローいたします。
遠方からお越しの患者様や転居される方には、緊急時対応のため紹介状をお渡ししておりますが、移動不可能な状況でないかぎり定期受診には必ずお越しください。

人工関節の長期成績(どれほど長持ちするものか?)

場所によりますが、関節は日に1万回以上動くといわれています。人工関節も、動かすたびにこすれ合うため、わずかずつすり減っていくことは避けられません。かつては「寿命は十年」といわれていましたが、初期の人工関節の誕生から50年以上経過する間によりよい人工関節材質の選択、さらには材料や手術手技の飛躍的な進歩により、耐久性が格段に向上しています。
最近では、普通の日常生活の範囲内での使用では、関節部分のポリエチレンがすり減って再手術となる関節はほとんどみられなくなりました。

しかし、
「転んで打ちどころが悪く、人工関節の土台の自分の骨の部分で骨折をおこしてしまった」
「体力が落ちたときに細菌に感染し、その菌が人工関節の周囲にたまって化膿した」
「限界をこえる動きをしてしまい、関節がはずれ(脱臼)、その後繰り返すようになった」
といった理由で、早々に再手術の対象となる方も時折いらっしゃいます。
「○○年まではもつことを保証します」とはいえないのが実情です。
近年では、術後10年経過時に無事に使われ続けている人工関節は95%以上(股関節・膝関節の場合)といわれていますが、逆にいえば、20~30人にひとりくらいは術後10年までに再手術をうけている計算となります。
そのために前述のように定期受診をしていただく必要があります。

人工関節に関する調査・研究について

当センターでは既に学会で良好な使用実績が十分に報告されている関節を用いていますので、器械の欠陥のために再手術で交換しなければならなくなるケースは考えにくく、実際そのような経験もありません。
ただし、現在使用している関節も、未だ術後20年、30年・・・といった長期の成績はでていません。手術をうけた方々のその後の経過を観察することで、成績が定まっていく見込みです。
当センターでは一般施設よりご高齢の方々に数多くの人工関節手術を手がけておりますので、人工関節メーカーからの依頼により、市販後成績調査への協力を行っています。また、独自にいくつかのテーマについての調査研究を行っています。これらは患者様方に負担を生じるものではありませんので、ぜひご協力をお願いいたします。

例:NaF-PET(骨代謝生体イメージング)

この検査は体内に埋め込んだ人工関節機械の周囲で骨がどれくらい活発に再生されているかを測る機械で、この研究可能な施設は全国に数えるほどしかありません。